【読書亡羊】雑誌「冬の時代」が過ぎて春が来る?  永田大輔・近藤和都(編著)『雑誌利用のメディア社会学』(ナカニシヤ出版)|梶原麻衣子

【読書亡羊】雑誌「冬の時代」が過ぎて春が来る? 永田大輔・近藤和都(編著)『雑誌利用のメディア社会学』(ナカニシヤ出版)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


ワイドショー化する女性週刊誌

第十章、加藤穂香氏の「女性週刊誌の表紙の戦略」も実に面白い。『週刊女性』(主婦と生活社)、『女性自身』(光文社)、『女性セブン』(小学館)の女性誌御三家の表紙の変遷を1965年、1975年、1985年の12月号をそれぞれ比べて追っているのだが、三誌ともにほぼ同じ系統の進化を遂げていることがわかる。

1965年は、おしゃれな外国人がメインの前身写真。1975年になると外国人モデルの顔がアップになり、1985年には、現在の表紙に近い、日本の芸能人の写真と記事タイトルの組み合わせへと変わっている。

なぜ歩調を合わせるように同じような進化を遂げていったのか。本書では、表紙が文字だらけになり、雑誌タイトルすらも覆い隠すほどになっていく過程と、テレビで報じられるようになったワイドショーとの関連を指摘する。

さらに加藤氏は、ゴシップ記事に過激なタイトルで読者の興味を引こうとする編集方針が、オンライン記事のタイトルに引き継がれているとも指摘している。媒体が何であれ、読者が関心を持つ記事、目を引くタイトルは変わらないということだ。

このほかにも結婚情報誌『ゼクシィ』のように、人生の特定の一時期にだけ読まれる雑誌や、漫画雑誌でありながら、その外側にある実際のおもちゃの販促や流行の文化を形成する場ともなっていた『月刊コロコロコミック』などが取り上げられている。アニメ雑誌『アニメージュ』の読者欄で展開された「アニメ主題歌は子供向けか否か」の論争なども、実に興味を惹かれる。

気になる章、自分が読んでいた雑誌の章を読むだけでも、発見の多い一冊となっている。

雑誌のパッケージ力が見直される時代に?

雑誌はアイデンティティと共同体意識を形成するといったが、興味深い変化もある。先に紹介した『週刊少年ジャンプ』のように、本来は少年期の間だけ、少年(つまり男児のみ)が読む対象だったところ、少女(女児)も読むようになった雑誌もある。

また本来、『週刊少年ジャンプ』は成長に合わせて読者が雑誌を卒業し、下の世代から新たな読者が入ってくることを想定しているはずだ。ところがいつまでも卒業せず、青年期、成人期、中年期を経て老年になっても読んでいるというケースもある。筆者もおそらく老年期になっても、紙の雑誌の刊行が停止になるまでは紙で毎週『週刊少年ジャンプ』を読み続けるだろう。

雑誌は冬の時代を迎え、コンビニでの販売からの撤退を余儀なくされてもいる。だが、ウェブ上で細切れに流れてくる情報にすっかり慣れた頃、物体としてパッケージされている雑誌の価値や意味合いが改めて見直される時期が来るのではないか。

雑誌好きの筆者としては、本書を読みながら期待含みでそんなことを考えてしまうのだ。

梶原麻衣子 | Hanadaプラス

https://hanada-plus.jp/articles/712/

ライター・編集者。1980年埼玉県生まれ。月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経てフリー。雑誌、ウェブでインタビュー記事などの取材・執筆のほか、書籍の編集・構成などを手掛ける。

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