人口減少が日本のITに影を落とす
一方、本書によれば、中国企業が海底ケーブルのシェアの10%ほどを担っているという。ファーウェイの通信機器がシェアを伸ばしたように、今後、中国製ケーブルが増えてくる可能性は少なくない。中国政府の後押しがあり、さらには「デジタルシルクロード」(デジタル版の一帯一路)構想におけるインフラ整備にも海底ケーブルが含まれているからだ。
ファーウェイ製通信機器と同様、中国の海底ケーブルからは情報を抜かれてしまう恐れを考慮せざるを得ないが、これもデータに関する感度が高くなければ懸念すら抱くことができない。すでに海外のビックテックからは「丈夫さよりも安くて速いもの」を要請する声が出てきているという。
いや、「安くて速い」というようなメリットがなかったとしても、早晩、「保守・整備を中国その他の外国企業に担ってもらうしかない」状況が来ないとも限らない。
というのも、日本には人口減少・高齢化の波が押し寄せており、熟練の技を身に着けた技術者を将来的に、安定的に確保できるのかということまで考えざるを得ないからである。
「物理的な保守業務」人材の確保が重要
となると、気になるのは「サイバー安全保障」はどう達成されうるのかという点だ。人手不足が深刻な自衛隊でもサイバー人材を募集しているが、その際に想定されているのは、どちらかと言えば論理側の対応ができる人材だろう。
つまり、ソフトウェアやシステムの脆弱性を見つけたり穴をふさいだりする、あるいは敵からのハッキングに対処するような、いずれにしてもパソコンを操作して仕事をする技術者を指しているのではないか。
だが、本書を読めばわかるように、サイバースペースが健全に保たれるためには、「物理的な保守業務」ができる人材も必要になる。海底ケーブル、地上に上がった中継機などの敷設、メンテナンスはもちろんのこと、有事を前に遮断されかねないこれらを、破壊工作員の手から守らねばならないのである。
本書では、地政学的安定性や税制の面から、日本に各国企業のデータセンターが進出している件にも触れられている。だが一方で、いざというときにデータセンターが軍事目標として狙われる可能性も指摘されており、この点は見逃せない。
少し前から「データは21世紀の石油」と呼ばれるようになったが、確かにデータを資源とみなすのであれば、資源をやり取りするパイプライン(通信網)もろともなきものにする攻撃は、実際の軍事攻撃であれ、サイバー攻撃であれ、あり得ることを前提に考える必要がある。