【読書亡羊】トランプ陣営も「これ」で献金を巻き上げた⁉ ハリー・ブリヌル著『ダークパターン』(BNN)

【読書亡羊】トランプ陣営も「これ」で献金を巻き上げた⁉ ハリー・ブリヌル著『ダークパターン』(BNN)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


1回のつもりが7回も寄付

こうしたダークパターンを用いるのは通販事業者だけではない。なんと、現在11月の米大統領選の有力候補であるトランプ前大統領の選挙活動にも「多種多様な」ダークパターンが使用されていたという。

最初は、献金する際のチェックボックスで「定期的に寄付をする」にマークがデフォルト(初期設定)で入っている、というもので、本書の事例で言えばかなり初歩的な手段だった。

ところがこの手段で「定期的な献金」を選択したままにしたユーザーが多かったことに味を占め、一週間後には「寄付と同じ金額を、トランプの誕生日祝いとして別途寄付する」という項目が追加されたという。

さらには「定期的に寄付」の期間を「毎月」から「毎週」に変えたうえ、寄付金額を細字にして額を目立たなくしたり、勝手に「さらに100ドルを寄付」なども選択済みにしておくという手法を取った。

これにより、一回だけ、少額の寄付をするつもりでサイトから申し込んだトランプ支持者は、誕生日の献金、毎週の定額献金に加え、さらに100ドルまで取られることになってしまったという。

78歳のトランプ支持者が「900ドルを1回だけ寄付するつもりだったのに、気づけば7回も寄付させられていた」と驚愕している実例も紹介されている。

もし日本で政治家がこうした文字通りのダークなパターンで寄付や献金を募ったとしたら、そのページがスクリーンショットでSNS上にアップされ、非難囂々の嵐になるに違いない。謝罪に追い込まれ、返金対応さえしなければならなくなるはずだ。政治家のような公的な立場にある人間だけでなく、企業であっても炎上は免れないだろう。

Getty logo

良心よりも数値目標、の世界

ある通販サイトが訴訟を起こされ、賠償金を払った事例も紹介されているが、それでもこうした事例が後を絶たないのは、結局「手法が問題視され賠償金を払うことになったとしても、それ以外のユーザーから巻き上げられる売り上げが大きい」からだ。

ユーザー視点から言えば「短期的には騙せても、そうした姑息な手段を使うサイトは継続的には利用しない」となりそうなものだ。

だが、サービス事業者には事業者側の論理がある。

ウェブの世界ではA/Bテストが行われており、通常の文言で販売を促すAパターンのサイトと、脅し文言などを使うBパターンをそれぞれ表示し、実際にどちらが効果的かをテストすることができる。おそらく、テストでは「脅し文言」のBパターンのほうが、数字が良かったのだろう。

しかしこれは、ユーザーを人間ではなく、「単なる数字」でしか見ていないからこそ陥る過ちである、と本書は指摘する。

業界ではKPIと言われる数値目標(ページビュー、ユニークユーザー数、サイト内回遊率など)が定められており、運営側はこれを達成することを求められる。「数字さえ達成できればいい」わけで、ユーザーがその結果どんな気持ちになったか、相手を騙すことになっていないか、などの良心は考慮の対象外。だからこうした手段が横行する、ということなのだ。

関連するキーワード


書評 読書亡羊 梶原麻衣子

関連する投稿


【読書亡羊】「麻辣強国」VS「マサラ強国」…米中印G3時代への準備はいいか  中川コージ『インドビジネスの表と裏』(ウェッジ)|梶原麻衣子

【読書亡羊】「麻辣強国」VS「マサラ強国」…米中印G3時代への準備はいいか 中川コージ『インドビジネスの表と裏』(ウェッジ)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】熊はこうして住宅地にやってくる!  佐々木洋『新・都市動物たちの事件簿』(時事通信社)|梶原麻衣子

【読書亡羊】熊はこうして住宅地にやってくる! 佐々木洋『新・都市動物たちの事件簿』(時事通信社)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】韓国社会「連帯」と「分断」の背景に横たわる徴兵制の現実とは  金柄徹『韓国の若者と徴兵制』(慶應義塾大学出版会)|梶原麻衣子

【読書亡羊】韓国社会「連帯」と「分断」の背景に横たわる徴兵制の現実とは 金柄徹『韓国の若者と徴兵制』(慶應義塾大学出版会)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】ウイグルに潜入したら見えてきた「中国の本当の姿」とは  西谷格『一九八四+四〇――ウイグル潜行』(小学館)|梶原麻衣子

【読書亡羊】ウイグルに潜入したら見えてきた「中国の本当の姿」とは 西谷格『一九八四+四〇――ウイグル潜行』(小学館)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】ウクライナの奮闘が台湾を救う理由とは  謝長廷『台湾「駐日大使」秘話』(産経新聞出版)|梶原麻衣子

【読書亡羊】ウクライナの奮闘が台湾を救う理由とは 謝長廷『台湾「駐日大使」秘話』(産経新聞出版)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


最新の投稿


夫婦でロシア入国禁止の理由とは?|石井英俊

夫婦でロシア入国禁止の理由とは?|石井英俊

民間人にまで及ぶ「ロシア入国禁止措置」は果たして何を意味しているのか? ロシアの「弱点」を世界が共有すべきだ。


おばあちゃんからのメッセージ|なべやかん

おばあちゃんからのメッセージ|なべやかん

大人気連載「なべやかん遺産」がシン・シリーズ突入! 芸能界屈指のコレクターであり、都市伝説、オカルト、スピリチュアルな話題が大好きな芸人・なべやかんが蒐集した選りすぐりの「怪」な話を紹介!信じるか信じないかは、あなた次第!


【蒟蒻問答】高市に期待するのはタブーへの挑戦|堤堯×久保紘之【2026年1月号】

【蒟蒻問答】高市に期待するのはタブーへの挑戦|堤堯×久保紘之【2026年1月号】

月刊Hanada2026年1月号に掲載の『【蒟蒻問答】高市に期待するのはタブーへの挑戦|堤堯×久保紘之【2026年1月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


ツキノワグマとどう向き合うか|永幡嘉之【2026年1月号】

ツキノワグマとどう向き合うか|永幡嘉之【2026年1月号】

月刊Hanada2026年1月号に掲載の『ツキノワグマとどう向き合うか|永幡嘉之【2026年1月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


真昼の暗黒! 対家庭連合特別法|杉原誠四郎

真昼の暗黒! 対家庭連合特別法|杉原誠四郎

令和五年に、対家庭連合(旧統一教会)に対する特別法が制定されたが、実はこの法律にはとんでもない規定が並んでいた!