【読書亡羊】トランプ陣営も「これ」で献金を巻き上げた⁉ ハリー・ブリヌル著『ダークパターン』(BNN)

【読書亡羊】トランプ陣営も「これ」で献金を巻き上げた⁉ ハリー・ブリヌル著『ダークパターン』(BNN)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


もはや詐欺の領域に

どこをどう探しても、会員登録解除のページにたどり着かないサイトや、ページを開いた途端に謎のカウントダウンが始まり、「今ならお得、早く買わないと通常価格に戻ります」と警告してくる通販サイト。

こうしたサイトのデザインは「ダーク(闇の)パターン」、もしくは「ディセプティブ(人を欺く)パターン」と呼ばれている。

『ダークパターン――人を欺くデザインの手口と対策』(BNN、長谷川敦士監訳・高瀬みどり訳)の著者、ハリー・ブリヌルその人が名付け親で、本書は欧米を中心に、ユーザーを罠にかけるがごときサイトの手口の数々を紹介する。

日本でも冒頭述べたような我々が目にするダークパターン的なサイトは少なくないが、本書で紹介される欧米のそれはえげつなさにおいて日本の比ではない。もはや不誠実を超えて不謹慎や詐欺の領域に片足を突っ込んでいるのではないかと思われるようなものまで散見されるのだ。

その手法は実に様々で、人間心理の盲点を突き、デザインでごまかし、目の錯覚まで利用しながら、しかし合法の範囲内でいかに収益を上げるかに終始する。まさにダークパターンは〈心理学、デザイン、法律が交錯するところ〉。ウェブの世界の殺伐とした「騙し」の実態が垣間見えるのだ。

ダークパターン 人を欺くデザインの手口と対策

「断れば早死にします」

本書が紹介している中で、最もショッキングだった例を挙げよう。それは医療品や救急箱を扱うメディカル系の通販サイトの事例だ。

会員登録し、買い物をするところまでは通常のサイトと同じなのだが、ウェブサイトからのお知らせ(新商品やセール情報など)を「受け取らない」と選択する場合にクリックする文言が、次のようなものになっていたという。

〈No,I don’t want to stay alive.(いいえ、私は生き長らえたくありません )〉

つまり、サイトからのお知らせを受け取らないと早死にするぞ、と脅しているのである。もちろん、お知らせを受け取らなくても早死にはしない。むしろこうした文言に不快になったユーザーはお知らせを受け取らないどころかこのサイトでの買い物を止めてしまうのではないかと思うが、後述するように一定の効果があるからこそこうした手法が使われたのだ。

もっと直接的な手段もある。イギリスのあるスポーツ用品店のサイトのケースでは、商品を買うと勝手にマグカップと雑誌も一緒に買い物かごに入れられてしまう。注意深いユーザーであればかごから削除してショッピングを続けるだろうが、多くのユーザーはそのまま決済してしまい、要らないマグカップと雑誌を一緒に買う羽目になったという。

2014年以降、EU圏内ではこうした手法は法律で禁じ手となったが、相手の不注意に付け込んで要らない商品を売りつける手法が一時的にもまかり通っていたとは驚くばかりだ。

関連するキーワード


書評 読書亡羊 梶原麻衣子

関連する投稿


【読書亡羊】世界には「反移民で親LGBT」「愛国的環境保護派」が存在する  中井遼『ナショナリズムと政治意識』(光文社新書)

【読書亡羊】世界には「反移民で親LGBT」「愛国的環境保護派」が存在する  中井遼『ナショナリズムと政治意識』(光文社新書)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】本当は怖いモディ首相の「寝てない自慢」と「熱い胸板自慢」  湊一樹『「モディ化」するインド』(中公選書)

【読書亡羊】本当は怖いモディ首相の「寝てない自慢」と「熱い胸板自慢」 湊一樹『「モディ化」するインド』(中公選書)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】それでもツイッターは踊る  津田正太郎『ネットはなぜいつも揉めているのか』(ちくまプリマー新書)

【読書亡羊】それでもツイッターは踊る 津田正太郎『ネットはなぜいつも揉めているのか』(ちくまプリマー新書)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】あなたは本当に「ジャーナリスト」を名乗れますか?  ビル・コバッチ、トム・ローゼンスティール著、澤康臣訳『ジャーナリストの条件』(新潮社)

【読書亡羊】あなたは本当に「ジャーナリスト」を名乗れますか? ビル・コバッチ、トム・ローゼンスティール著、澤康臣訳『ジャーナリストの条件』(新潮社)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは  『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは 『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


最新の投稿


安倍元総理の命日にあたり、その功績を改めて記す|和田政宗

安倍元総理の命日にあたり、その功績を改めて記す|和田政宗

本日は安倍晋三元総理の命日。安倍元総理が凶弾に倒れてから2年を迎えた。改めてご冥福をお祈りするとともに、非道な暗殺を満身の怒りをもって非難する。


【今週のサンモニ】投票日でもお構えなし|藤原かずえ

【今週のサンモニ】投票日でもお構えなし|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】トランプ陣営も「これ」で献金を巻き上げた⁉ ハリー・ブリヌル著『ダークパターン』(BNN)

【読書亡羊】トランプ陣営も「これ」で献金を巻き上げた⁉ ハリー・ブリヌル著『ダークパターン』(BNN)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

すぐ隣の国でこれほどの非道が今もなお行なわれているのに、なぜ日本のメディアは全く報じず、政府・外務省も沈黙を貫くのか。公約を簡単に反故にした岸田総理に問う!


なべやかん遺産|「ノアの神」

なべやかん遺産|「ノアの神」

芸人にして、日本屈指のコレクターでもある、なべやかん。 そのマニアックなコレクションを紹介する月刊『Hanada』の好評連載「なべやかん遺産」がますますパワーアップして「Hanadaプラス」にお引越し! 今回は「ノアの神」!