どんな政治家にも功罪の両面があるものだが、川勝に関しては「功」はない。
4月10日の辞任会見で、記者から「これまでご自身で成し遂げたものは」と質問され、川勝は富士山の世界文化遺産登録と2023年の「東アジア文化都市事業」の成功を挙げた。
私は富士山の世界遺産登録にかかわっていたからわかるが、川勝は世界文化遺産登録の活動などなにもしていない。カネ集めや世論醸成など、いちばん動いたのは電通だった。川勝は富士山の世界文化遺産登録が決まったとき、議場で万歳しただけだ。
「東アジア文化都市事業」の成功についてもまやかしである。
「東アジア文化都市事業」とは、日本・中国・韓国の3カ国で、毎年文化都市を選定し、文化芸術イベント等の実施により、東アジアにおける多様な文化の国際発信力を高めていこうというもの。2023年は、静岡が開催地だった。
来場者数が722万人と当初の目標を上回り、経済効果も100億円以上が見込まれるとし、川勝は「県民の祝祭意識の高揚と東アジアとの国際交流が効果的に実現できた」と鼻高々だったが、この数字にはからくりがある。
「東アジア文化都市文化事業」のためのイベントだけでなく、毎年、静岡県内で行われている「静岡まつり」や「浜松まつり」など、さまざまな地域イベントも「東アジア文化都市文化事業」のなかに組み込むことで、来場者数を「かさ上げ」しているのだ。
しかも、この「東アジア文化都市文化事業」に関し、川勝は問題を起こしている。
2023年10月12日、静岡県内商工会議所会頭らの懇談で、川勝知事はこんな発言をした。
「三島を拠点に、東アジア文化都市の発展的継承センターのようなものを置きたい。そのために土地を物色している。実際は、国の土地を譲ってもらう詰めの段階に入っている、それも買わないで定期借地で借りたい」
しかし、この計画は県議会にまったく諮っていなかったため、議会は仰天。川勝は議会の追及を受けたが、結局は、まだ決まってもいない頭のなかのアイデアを、「詰めの段階」として堂々と外部に話しただけだった。
議会に諮っていないことを決定事項のように外に語るなど、普通の政治家ならあり得ない。
ことほど左様に、川勝は「政治」ができなかった。
今回、辞任するにしても、普通の政治家であれば、石川に倣って、JR東海と交渉し、自分の首と引き換えに、悲願である静岡空港新駅設置を取り付けるなど、やり方はいろいろあったはずだ。
そういったアドバイスや耳の痛いことを言ってくれる人も周りにいなかったのだろう。川勝は完全に「裸の王様」になっていた。
結局、川勝が静岡に残したのは混乱だけである。
15年に及ぶ「川勝劇場」は、「知事失格」の烙印を押されたまま、あっけなく幕を下ろすことになった。
再び、「川勝劇場」の幕が上がることはないだろう。
(文中敬称略)
「静岡経済新聞」編集長。1954年静岡県生まれ。1978年早稲田大学政治経済学部卒業後、静岡新聞社入社。政治部、文化部記者などを経て、2008年退社。現在、久能山東照宮博物館副館長、雑誌『静岡人』編集長。著作に『静岡県で大往生しよう』(静岡新聞社)、『家康、真骨頂、狸おやじのすすめ』(平凡社)などがある。