美月氏は「クロスドレッサー」
「生まれつきの性(男性)から女性への性転換手術を受けました。女性の体を持ちたがるのなら性対象は男性なのだろうと多くの人はそう考えがちですが、私は男性に全く性的興味はありません」と美月氏はきっぱりと言い切った。
美月氏はトランスジェンダーのなかでも「自分は女性として社会で生きていたい」と考えて性転換した「クロスドレッサー」なのだという。自分が生まれついた男性という性に大きな違和感をもち、男性の体も、スーツにネクタイなどの男性の服装も大きなストレスとなってきた。
この「悩み」を一生抱えて生きていく苦しみより、カミングアウトしてトランスジェンダーとしての「悩み」と共に生きる道を選んだ。女性への性転換をしたからといって、一概に男性が性対象というわけではない。トランスジェンダーのなかでも様々な違いがある。
「そのあたりは一人ひとり違うので、その点を説明しましょう。LGBTの中でも、『T』すなわち『トランスジェンダー』の方々(私も含む)の性的指向は非常に多様です。これには私も正直驚きました。例を挙げてみると次のようになります」
①「MTF:男→女」の場合
A: 男性が好き(性交が有る、無し、を含む)
B: 女性が好き(性交が有る、無し、を含む)
C: トランスジェンダーの男性が好き(性交が有る、無し、を含む)
D: トランスジェンダーの女性が好き(性交が有る、無し、を含む)
E: 性的興味が無い(女性として社会で生きることが目的)
美月氏はEのカテゴリーに該当するという。
②「FTM:女→男」の場合
A: 女性が好き(性交が有る、無し、を含む)
B: 男性が好き(性交が有る、無し、を含む)
C: トランスジェンダーの女性が好き(性交が有る、無し、を含む)
D: トランスジェンダーの男性が好き(性交が有る、無し、を含む)
E: 性的興味が無い(男性として社会で生きることが目的)
美月氏によると、トランスジェンダーには大まかにこのように分けられるという。「女性の外見を持つから男性を好きになるのではないか」という発想も、これを見ると大きな誤解だったようだ。やはり話を聞かないとわからないものだ。
「辞めなくてはいけませんか?」と進退伺い
美月氏は、40歳を超えてから性転換手術に踏み切った。
「私はホルモン注射がとてもよく効くタイプで、整形手術をしなくても、ホルモン療法だけでこれだけ変わる人も少ないってよく言われます。ほんと安上がりでした」
手術後のホルモン療法で女性らしい身体つきになり、胸も膨らんできた。予備自衛官の訓練出頭を前に、その容姿は明らかに変わり、誤魔化しきれないものとなった。
ここで彼(彼女)は正直に、予備自衛官としての担当地域の自衛隊地方協力本部に進退伺いを提出した。
「自分はトランスジェンダーであり、治療のため性転換手術を受けた。予備自衛官としてこれまでどおり訓練を受け勤め上げたいが、辞めなくてはいけませんか?」
元国家公務員であったため、正式な進退伺い書類をつくり、「もしかしたら、首を切られるかもしれない」と覚悟も決めた。
しかし、自衛隊地方協力本部からは「予備自衛官を続けてほしい」という回答がきた。
「性転換で不自由のないように、今後の自衛隊での生活面について話し合いましょう」という提案もあり、その後、出頭する拠点の設備や出頭する部隊等の都合も含めての話し合いがあった。
「自衛隊が引き続き予備自衛官として変わらず、受け入れてくれた。ありがたい」
その後、彼(彼女)は自衛隊側と協議の上、以下のルールを決めた。
「就寝時は男性の宿舎のなかで就寝することになりました。一緒に訓練をしている予備自衛官たちとは仲良く訓練をしている。彼らは最初こそ、男性から女性への変貌に驚いたものの普段と変わらぬ対処をしてくれた。就寝は彼らと一緒で何も問題はありません。
トイレは男性宿舎にあるトイレを使うことになりました。女性の体で男性と一緒に風呂には入ることは、いくら既知の友人たちであっても問題がおきないように共に配慮が必要でしょう。別の階のシャワールームを一人で使わせてもらいます。
予備自衛官の訓練については、性転換をしても身体能力は変わらないので十分にこなせますから、みんなと一緒に行います」と彼(彼女)は説明してくれた。予備自衛官訓練時の生活面のルールに美月氏は自衛隊側の心配りを感じたという。
多数の資格を持つ彼(彼女)は優秀な予備自衛官である。受け入れ先の拠点では女性隊員や男性隊員とも仲良くやっている。性同一性障害を告白し進退伺いまで出した美月氏だったが、その不安を優しく解消して同僚として勤務しやすい職場に調整してくれた自衛隊拠点に心から感謝しているそうだ。
入隊希望者が少なく、さらに途中退職が増えている自衛隊では人材は貴重である。美月氏は遵法精神が強く教養もある。自衛隊にとって、こういう予備自衛官の存在は有難いことだろう。美月氏も仲間と変わらず、訓練ができることを喜んでいる。
このような例をみると、自衛隊が他のLGBTの隊員たちにも丁寧に配慮していることが想像できる。もとより個人情報であり、表立ってそういう例を表明することはないだろうが、自衛隊に「いい仕事したね(GJ!)」と伝えたいものである。