トランスジェンダー予備自衛官の本音|小笠原理恵

トランスジェンダー予備自衛官の本音|小笠原理恵

バイデン大統領は2021年1月25日、トランスジェンダーの米軍入隊を原則禁止したトランプ前大統領の方針を撤廃する大統領令に署名した。米軍では大統領が変わるごとにLGBTの扱いが激変――。だが、自衛隊ではお互いに理解を深めつつ共存している。その一例をご紹介しよう。


美月氏は「クロスドレッサー」

「生まれつきの性(男性)から女性への性転換手術を受けました。女性の体を持ちたがるのなら性対象は男性なのだろうと多くの人はそう考えがちですが、私は男性に全く性的興味はありません」と美月氏はきっぱりと言い切った。

美月氏はトランスジェンダーのなかでも「自分は女性として社会で生きていたい」と考えて性転換した「クロスドレッサー」なのだという。自分が生まれついた男性という性に大きな違和感をもち、男性の体も、スーツにネクタイなどの男性の服装も大きなストレスとなってきた。

この「悩み」を一生抱えて生きていく苦しみより、カミングアウトしてトランスジェンダーとしての「悩み」と共に生きる道を選んだ。女性への性転換をしたからといって、一概に男性が性対象というわけではない。トランスジェンダーのなかでも様々な違いがある。

「そのあたりは一人ひとり違うので、その点を説明しましょう。LGBTの中でも、『T』すなわち『トランスジェンダー』の方々(私も含む)の性的指向は非常に多様です。これには私も正直驚きました。例を挙げてみると次のようになります」

①「MTF:男→女」の場合 
A: 男性が好き(性交が有る、無し、を含む)
B: 女性が好き(性交が有る、無し、を含む)
C: トランスジェンダーの男性が好き(性交が有る、無し、を含む)
D: トランスジェンダーの女性が好き(性交が有る、無し、を含む)
E: 性的興味が無い(女性として社会で生きることが目的) 

美月氏はEのカテゴリーに該当するという。

②「FTM:女→男」の場合 
A: 女性が好き(性交が有る、無し、を含む)
B: 男性が好き(性交が有る、無し、を含む)
C: トランスジェンダーの女性が好き(性交が有る、無し、を含む)
D: トランスジェンダーの男性が好き(性交が有る、無し、を含む)
E: 性的興味が無い(男性として社会で生きることが目的)
 
美月氏によると、トランスジェンダーには大まかにこのように分けられるという。「女性の外見を持つから男性を好きになるのではないか」という発想も、これを見ると大きな誤解だったようだ。やはり話を聞かないとわからないものだ。

「辞めなくてはいけませんか?」と進退伺い

美月氏は、40歳を超えてから性転換手術に踏み切った。
「私はホルモン注射がとてもよく効くタイプで、整形手術をしなくても、ホルモン療法だけでこれだけ変わる人も少ないってよく言われます。ほんと安上がりでした」

手術後のホルモン療法で女性らしい身体つきになり、胸も膨らんできた。予備自衛官の訓練出頭を前に、その容姿は明らかに変わり、誤魔化しきれないものとなった。

ここで彼(彼女)は正直に、予備自衛官としての担当地域の自衛隊地方協力本部に進退伺いを提出した。
「自分はトランスジェンダーであり、治療のため性転換手術を受けた。予備自衛官としてこれまでどおり訓練を受け勤め上げたいが、辞めなくてはいけませんか?」

元国家公務員であったため、正式な進退伺い書類をつくり、「もしかしたら、首を切られるかもしれない」と覚悟も決めた。

しかし、自衛隊地方協力本部からは「予備自衛官を続けてほしい」という回答がきた。
「性転換で不自由のないように、今後の自衛隊での生活面について話し合いましょう」という提案もあり、その後、出頭する拠点の設備や出頭する部隊等の都合も含めての話し合いがあった。

「自衛隊が引き続き予備自衛官として変わらず、受け入れてくれた。ありがたい」
その後、彼(彼女)は自衛隊側と協議の上、以下のルールを決めた。

「就寝時は男性の宿舎のなかで就寝することになりました。一緒に訓練をしている予備自衛官たちとは仲良く訓練をしている。彼らは最初こそ、男性から女性への変貌に驚いたものの普段と変わらぬ対処をしてくれた。就寝は彼らと一緒で何も問題はありません。

トイレは男性宿舎にあるトイレを使うことになりました。女性の体で男性と一緒に風呂には入ることは、いくら既知の友人たちであっても問題がおきないように共に配慮が必要でしょう。別の階のシャワールームを一人で使わせてもらいます。

予備自衛官の訓練については、性転換をしても身体能力は変わらないので十分にこなせますから、みんなと一緒に行います」と彼(彼女)は説明してくれた。予備自衛官訓練時の生活面のルールに美月氏は自衛隊側の心配りを感じたという。

多数の資格を持つ彼(彼女)は優秀な予備自衛官である。受け入れ先の拠点では女性隊員や男性隊員とも仲良くやっている。性同一性障害を告白し進退伺いまで出した美月氏だったが、その不安を優しく解消して同僚として勤務しやすい職場に調整してくれた自衛隊拠点に心から感謝しているそうだ。

入隊希望者が少なく、さらに途中退職が増えている自衛隊では人材は貴重である。美月氏は遵法精神が強く教養もある。自衛隊にとって、こういう予備自衛官の存在は有難いことだろう。美月氏も仲間と変わらず、訓練ができることを喜んでいる。

このような例をみると、自衛隊が他のLGBTの隊員たちにも丁寧に配慮していることが想像できる。もとより個人情報であり、表立ってそういう例を表明することはないだろうが、自衛隊に「いい仕事したね(GJ!)」と伝えたいものである。

関連する投稿


批判殺到!葬祭の準備まで問題視するしんぶん赤旗の空虚なスクープ

批判殺到!葬祭の準備まで問題視するしんぶん赤旗の空虚なスクープ

読者獲得のための宣伝材料にしようと放った赤旗の「スクープ」だったが、批判が殺到!いったい何があったのか? “無理やりつくり出したスクープ”とその意図を元共産党員の松崎いたる氏が解説する。


「ある意味、地獄が待ってます」退職自衛官を苦しめる若年給付金の返納ルール|小笠原理恵

「ある意味、地獄が待ってます」退職自衛官を苦しめる若年給付金の返納ルール|小笠原理恵

ある駐屯地で合言葉のように使われている言葉があるという。「また小笠原理恵に書かれるぞ!」。「書くな!」と恫喝されても、「自衛隊の悪口を言っている」などと誹謗中傷されても、私は、自衛隊の処遇改善を訴え続ける!


From Hope to Hostility: Conservative Party of Japan Faces Growing Backlash|Jason Morgan and Kenji Yoshida

From Hope to Hostility: Conservative Party of Japan Faces Growing Backlash|Jason Morgan and Kenji Yoshida

Political conservatives in Japan have entered into a season of re-sorting.


【我慢の限界!】トラックの荷台で隊員を運ぶ、自衛隊の時代錯誤|小笠原理恵

【我慢の限界!】トラックの荷台で隊員を運ぶ、自衛隊の時代錯誤|小笠原理恵

米軍では最も高価で大切な装備は“軍人そのもの”だ。しかし、日本はどうであろうか。訓練や災害派遣で、自衛隊員たちは未だに荷物と一緒にトラックの荷台に乗せられている――。こんなことを一体、いつまで続けるつもりなのか。


自衛官の処遇改善、先送りにした石破総理の体たらく|小笠原理恵

自衛官の処遇改善、先送りにした石破総理の体たらく|小笠原理恵

「われわれは日本を守らなければならないが、日本はわれわれを守る必要がない」と日米安保条約に不満を漏らしたトランプ大統領。もし米国が「もう終わりだ」と日本に通告すれば、日米安保条約は通告から1年後に終了する……。日本よ、最悪の事態に備えよ!


最新の投稿


【今週のサンモニ】日本の農業の大きな闇|藤原かずえ

【今週のサンモニ】日本の農業の大きな闇|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


批判殺到!葬祭の準備まで問題視するしんぶん赤旗の空虚なスクープ

批判殺到!葬祭の準備まで問題視するしんぶん赤旗の空虚なスクープ

読者獲得のための宣伝材料にしようと放った赤旗の「スクープ」だったが、批判が殺到!いったい何があったのか? “無理やりつくり出したスクープ”とその意図を元共産党員の松崎いたる氏が解説する。


【読書亡羊】「台湾系移住民」が経験した古くて新しい問題  三尾裕子『心の中の台湾を手作りする』(慶応義塾大学三田哲学会叢書)|梶原麻衣子

【読書亡羊】「台湾系移住民」が経験した古くて新しい問題 三尾裕子『心の中の台湾を手作りする』(慶応義塾大学三田哲学会叢書)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


「ある意味、地獄が待ってます」退職自衛官を苦しめる若年給付金の返納ルール|小笠原理恵

「ある意味、地獄が待ってます」退職自衛官を苦しめる若年給付金の返納ルール|小笠原理恵

ある駐屯地で合言葉のように使われている言葉があるという。「また小笠原理恵に書かれるぞ!」。「書くな!」と恫喝されても、「自衛隊の悪口を言っている」などと誹謗中傷されても、私は、自衛隊の処遇改善を訴え続ける!


週刊誌不倫報道への違和感|なべやかん

週刊誌不倫報道への違和感|なべやかん

大人気連載「なべやかん遺産」がシン・シリーズ突入! 芸能界屈指のコレクターであり、都市伝説、オカルト、スピリチュアルな話題が大好きな芸人・なべやかんが蒐集した選りすぐりの「怪」な話を紹介!