【読書亡羊】「K兵器」こと韓国製武器はなぜ売れるのか 伊藤弘太郎『韓国の国防政策』(勁草書房)

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その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


「武器輸出大国」へ韓国が本腰 侵攻などで需要増、目標「世界4位」:朝日新聞デジタル

https://digital.asahi.com/articles/ASRBP470WRBKUHBI049.html

 ウクライナ侵攻などにより需要が高まる武器の国際市場で、韓国の防衛産業が注目を集めている。ソウル近郊では10月、韓国最大級の展示会を開催。尹錫悦(ユンソンニョル)政権は「世界4位の武器輸出大国」をめざ…

だが、韓国の武器輸出増は、ウクライナ事態だけが理由ではない。それ以前から拡大傾向にあり、中でも文在寅政権の任期後半にあたる2019年からは急激な伸びを見せている。

その理由として、本書は文在寅政権が防衛産業輸出振興に全力を注いだ結果、豪州からのK-9自走榴弾砲受注成功などの大型契約の成功を挙げている。

ここで読者は「え、左派の文在寅政権が? 親北派だったはずなのに?」と思うかもしれない。だが本書の解説に明らかなように、革新派の文政権はそれまでの保守政権よりも高い増加率で国防費を増やし、防衛産業振興にも尽力したという。

「Seoul ADEX 2021」という韓国最大級の航空宇宙・防衛産業分野の総合貿易展示会では、任期最後の文大統領が自らT-50練習機のコックピットに乗って周辺空域を飛行した後、開会式典に参加するというパフォーマンスを披露。

〈防衛産業は国民の生命と財産を水も漏らさず守る責任国防の重要な軸です〉と挨拶したという。

退任後の文大統領に関する数少ない日本での報道の一つに月刊『世界』(岩波書店)2023年9月号があり、大統領退任後、書店を開いたという文氏のインタビューが掲載されている。

「本の力を信じる」と、まさに「文」を重んじる文前大統領が印象付けられていたが、実は文前大統領は〈韓国は先端科学技術基盤のスマート強軍を目指し、世界と共に平和を作っていきます〉と述べる通り、「武」の力も大いに信じていたのだ。

戦闘機に搭乗した文在寅大統領(当時)

米国との軋轢も乗り越え

文氏の先の挨拶での〈技術獲得の困難を経験した〉の言葉の通り、韓国の防衛産業はまさにゼロからのスタートだった。〈小銃さえも作ることが出来ず、米軍からの装備品供与に依存せざるを得ない〉状況で、〈小銃を分解し、再び組み立てるという作業〉から防衛産業基盤の構築が始まったのだという。

そして1990年、湾岸戦争で目の当たりにした精密誘導兵器の時代の到来に、装備品の近代化を切望するようになる。すでに韓国は1980年代後半から半導体産業が力をつけてきており、先見の明と「軍民融合」的な産業全体の成長との連携も見え隠れする。

とはいえ、なぜそこまで「防衛産業」なのか。自前の武器、それも高性能の武器が必要であるという対北朝鮮の事情だけではない。本書は国防力と産業力、国際競争力の面からこう解説する。

〈米国を中心とする先進国から一方的に最新装備品を導入するだけではなく、自国の防衛産業基盤の維持とさらなる発展、そして自国の国防力向上のために、自国製の装備品を技術革新によって高度化させ、業界全体をより発展させなければならないという必要性に直面したからである〉

ここにあるのは「つまるところ、最後は自分の力で生き延び、生き残らなければならない」という自立と自律の精神だろう。

韓国はアメリカからの技術供与を受けていたこともあり、輸出の際に「対米承認」を得なければならず輸出が停滞した時期もあった。その後もアメリカからロイヤリティを求められたり、そもそもアメリカが韓国製武器の輸出にいい顔をしなかったりと、軋轢も存在したようだ。

そこで生産だけでなく自国開発の必要性を痛感し、現在では「K兵器」と言われるほど国際社会で求められるブランドになったというわけだ。

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