【読書亡羊】「K兵器」こと韓国製武器はなぜ売れるのか 伊藤弘太郎『韓国の国防政策』(勁草書房)

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その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


知っておかなければならない韓国の戦略

それにしても、なぜそんなに韓国製が求められるのか。それは「兵器そのものが安くてシンプル、そのうえ顧客対応も早くて柔軟、アフターサービスも充実している」からで、商売の肝を抑えている点が挙げられるようだ。

もう一つ、「国防外交」と呼ばれる国際社会に張り巡らされたネットワークが挙げられる。韓国軍が海外派遣や軍事交流、共同訓練などに参加することを通じてできたネットワークが、回り回って韓国製の武器を販売する販路構築に役立っている。

販路拡大の野心が行き過ぎて汚職を生んだり、情報機関が暗躍したり、駐在武官(日本で言うところの防衛駐在官)までもがセールスマンを担わざるを得なくなったりと、「そこまでやるか」の面もなくはない。だが、そこまでしなければ熾烈な輸出競争を勝ち抜くことはできないのが現実なのだろう。

日本も他人ごとではない。そうしたネットワークを介して、「K兵器」だけでなくテコンドー教育も輸出されているようで、中南米で唯一、朝鮮戦争に参加したコロンビアの陸軍士官学校では、「日本の空手道の授業がなくなり、代わりにテコンドー教育が成果を上げている」と本書は紹介している。

これを単に「テコンドーは空手のパクリで……」などと批判しても効果はなく、対抗するなら相応の国家戦略とセールスの姿勢、ネットワーク構築が必要になるだろう。

日本でも輸出条件の緩和は成ったものの、単に「いい製品をご用意しています」と商品を並べているだけでは誰も買いには来ない。本気で武器輸出を推進するのなら、本書が明らかにする韓国の国防政策と防衛産業振興、武器輸出の実態を知っておく必要がある。

梶原麻衣子 | Hanadaプラス

https://hanada-plus.jp/articles/712/

ライター・編集者。1980年埼玉県生まれ。月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経てフリー。雑誌、ウェブでインタビュー記事などの取材・執筆のほか、書籍の編集・構成などを手掛ける。

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