災難は続いた。K氏の顧問先の不動産会社社長が依頼した引っ越し業者と、田中さんが新たに契約することになった介護事業所のケアマネージャーが、これまで田中さんが使っていた洗濯機やエアコン、インターホン、家族写真アルバム、箪笥などを勝手に処分してしまったのだ。
しかも事業所のヘルパーは、田中さんが頼んでいないのに、新たにエアコン2台と炊飯器を購入して田中さんに請求。部屋にはもとから1台エアコンが取り付けてあったので、3台になった。このうち、物置部屋に設置されたエアコンと炊飯器を田中さんは一度も使ったことがない。
「私が一人暮らしの年寄りなので、皆、やりたい放題でした」(田中さん)
引っ越し後、田中さんは「80年間暮らしてきた家でずっと暮らしたかったのに追い出され、買いたくもないマンションを買わされた。社協に紹介された弁護士に高い報酬を払わされたが、意味がなかった」と社協に不満を言ったが、相手にされなかったという。
後見に関する社協の専門員の仕事は、社協に出入りしている弁護士や司法書士を紹介することで終わり。そのあとのことは自分たちの責任ではない、ということだろう。
突然解雇された生活支援員
引っ越し後の一昨年10月末、田中さんは生活支援員の池田誠子さんに、「引っ越しはしたくなかった」 「社協が紹介した弁護士に600万円払ったのに、何もしてくれなかった」と相談した。
目黒社協主催の市民後見人養成講座を14年に受講し、市民後見人と生活支援員になった池田さんは、後見制度は正しいと信じ、それを推進する社協と弁護士をずっと信頼していた。
目黒社協の機関紙『てって』(20年9月2日号)には、成年後見制度推進キャンペーンの一環として、市民後見人として活動中の池田さんの『「人生の先輩」の人生にかかわることができ、伴走できるのは素敵なことだと感じています』というコメントが載っている。
池田さんが語る。
「専門員は、田中さんが弁護士に不満を持っていることを私に一言も言いませんでしたが、田中さんとの雑談のなかで、田中さんが社協と弁護士に不満を持っていることは薄々分かっていました。600万円という金額はとても大きいので、たまたま後見の勉強を一からし直そうと思って受講した後見の杜の宮内代表に経緯を話したところ、宮内さんから“問題がありそうだ”とアドバイスを受けたのです」
宮内氏は東京大学で市民後見人養成講座の特任助教を務めたあと、後見の杜を立ち上げて代表に就任。宮内氏は池田さんの小学校の同級生だった。
ところが目黒社協は、池田さんが外部の宮内氏に相談したことを理由に、池田さんを問答無用で懲戒解雇にした。池田さんは解雇は不当として労働審判を申し立てたが、審判員から「労働審判は、あなたがしたことが田中さんに良かったかどうかを判断する場ではない」と言われたため、申し立てを取り下げざるを得なかった。