今回の中国政府による「いちゃもん」は、100%政治的意図に基づくものだ。有力な「対日カード」として使えるとの目算、台湾問題に関する日米連携へのしっぺ返しと牽制、経済失速に伴う国民の不満から目を逸らすなどの意図が混じり合っているとの点は、つとに指摘されている。中国(人)の焦り、あるいはフラストレーションのようなものも感じられる。
中国側が「汚染水」に最初に触れたのは、国連において日本がウイグルの人権問題を取り上げた時であり、日本の攻勢に対する「牽制」用カードとして持ち出したことを思えば、初めから政治色丸出しだったのだ。
私は、国際社会の日本への信頼感はとても高く、先述の主張は大方の理解を得るものと考えている。
現に、本稿執筆時点(九月初旬)で判明していることは、中国政府がこれだけ「懸命な努力」をしているにもかかわらず、中国に同調した国は極めて限定的だということだ。
私は、この基調は今後とも変わらず、「日本悪者」論の拡散は成功するはずがないと見ている。国際社会の日本への信頼・平常点が高いので、中国の目論みが成功する素地は少ないからだ。
日本政府がかかる国際的広報キャンペーンを強めることで、中国の「独りよがり」、虚言性があぶり出されれば、今後の中国の出方にも影響を与えるだろう。
いずれにせよ、国際社会は今回の末を冷静に観察している。「無理筋の外交」が何をもたらし、何をもたらさないか、しっかり見極めることになるだろう。
日本が正々堂々とこれに対処しているか、腰砕けになることがないかも、国際社会はしっかりと見つめている。日本、中国が、今後国際社会で信頼度を増すかどうかは、現在の振る舞いにかかっている。
1948年東京生まれ。1970年東京大学教養学部を卒業後、外務省入省。1973年英ケンブリッジ大学経済学部卒業、のちに修士課程修了。国際交流基金総務部長、スペイン公使、メルボルン総領事、駐グアテマラ大使、国際研修協力機構(JITCO)常務理事を経て、2006年10月より2010年9月まで、駐バチカン大使、2011年4月より杏林大学外国語学部客員教授。著書に『現代日本文明論 神を呑み込んだカミガミの物語』(第三企画)ほか。論文、エッセイ多数。