【処理水】国際社会に問え!「日本と中国、どちらが信頼できるか」|上野景文

【処理水】国際社会に問え!「日本と中国、どちらが信頼できるか」|上野景文

福島第一原子力発電所の処理水放出を開始した途端、喧しく反対する中国。日本はどのように国際社会に訴えるべきか。


中国の得意技

「真逆」になるが、中国政府は「存在しているもの」を「存在していない」と言い張る癖、得意技も持っている。
 
その典型は、新疆における「強制収容所」だろう。当初、そのようなものは「存在しない」と言っていたが、それでは防戦できないとわかると、「職業訓練所」であると言い換えた。が、強制収容所の「存在」は、今日に至るまで認めていない。
 
コロナの発生につき、当初「存在せず」と隠し通そうとしたことは、記憶に新しいところだ。この点については、さすがに認めざるを得なくなったが、不透明な部分は今日まで残っている。
 
彼らが「存在」を認めないものの最たる事例は、天安門事件だ。同事件は、中国では公には今日なお「不存在」の扱いだ。つまり、独裁制の下では、不都合なことは当局が「不存在」と宣言すれば「不存在」になるというわけだ。

そのようなマインドセットを持った中国政府だ。日本政府や国際機関が「存在」するとしている「安全」を「不存在」と言い張ることなど、朝飯前である。
 
さらに、日本に対し「科学への尊重が見られない」とも批判しているが、これも「あるもの」を「ない」という実に独りよがりな主張だ。
 
中国人は、政府というものは危険を「隠蔽する」ものだとの思い込みがあるのだろう。民主主義、オープンな社会で、そのようなこと(隠蔽)が不可能なことは、民主主義体制に馴染んだ人には自明であるが、中国では当たり前ではないのだ。
 
だから、「日本はごまかしている」「日本の言い分はフェイクだ」という突飛な発言が出てくるのである。

中国は日本を同類視?

今日の日本は、衛生基準、公衆衛生、環境面で、世界でも最も厳しい規制を課している国のひとつだ。
 
たとえば、国民の平均寿命は、数十年にわたり世界でもトップクラス。コロナ禍の下でも、日本の死亡者は世界で最低の水準にあった。それも、ほとんど強制的なロックダウンを実施することなく成し遂げた。

ひとえに、国民全体の衛生意識が高いことの賜物と言える。トイレなども過剰なくらい清潔だ。そのような衛生・環境面で国民の厳しい眼が光っているなかで、政府が国民を裏切るようなことができるはずがない。
 
これとは対照的に、たとえば冬期における北京市の空気の汚染は、国際的に有名だ。当局は有効な手を打つに至っていない、つまり「汚染」を事実上放置している。
 
また、清潔とは言い難いトイレが少なくない。失礼を承知で言うが、それが同国の衛生レベルなのだ。
 
が、今回、中国のメディアは、日本が世界の海を「汚している」とするどぎつい動画やアニメを一斉に流すことで印象操作を図っている。まさに「捏造」(フェイク)そのもので、私には、彼らの「自画像」を流しているように感じられる。
 
つまり、日本政府も自分たちと同様、汚染(の垂れ流し)など気にしてはいないはずだとの思い込み(前提)があるのだ。日本は「垂れ流し」をしながら「そんなことはしていない」と「ごまかしている」と。
 
日本が、汚染水をクリーン水にするためにどれほど努力しているかは、はなから眼中にはないのだ。
 
先述したように、中国は日本を自分たちと同レベル、同類と見ている。「とんでもない誤解」であり、そんな「思い込み」で日本のことをここまでこき下ろすなど、普通のセンスではできない芸当だ。
 
衛生面で進んでいる日本が、よりによって、衛生面でかなり遅れている中国からとやかく言われるのは心外だ、と感じている日本人は少なくないはずだ。

何やら、女性の扱いにつき、タリバンがスウェーデンに説教しているのと似た構図とでも言うべきか。「上から目線」的もの言いになるが、中国には自分たちを超える(もっと「まとも」な)世界があることを学んでいただきたい。 
 
中国は、日本が「危険」を隠蔽しているとの思い込みに立ち、あるいは確信犯的にフェイク情報を流すことで日本の科学論を否定してみせた。これとは対照的に、日本国政府がそのようなフェイク情報をもてあそぶことはまずない。生真面目過ぎるという難はあるが。

正々堂々、対処せよ

関連するキーワード


中国 処理水 上野景文

関連する投稿


米国を破壊するトランプの“ラ米化”|上野景文(文明論考家)

米国を破壊するトランプの“ラ米化”|上野景文(文明論考家)

トランプ政権の下で、混迷を極める米国。 彼の目的は、いったい何のか。 トランプを読み解く4つの「別人化」とは――。


人権弾圧国家・中国との「100年間の独立闘争」|石井英俊

人権弾圧国家・中国との「100年間の独立闘争」|石井英俊

人権弾圧国家・中国と対峙し独立を勝ち取る戦いを行っている南モンゴル。100年におよぶ死闘から日本人が得るべき教訓とは何か。そして今年10月、日本で内モンゴル人民党100周年記念集会が開催される。


旧安倍派の元議員が語る、イランがホルムズ海峡を封鎖できない理由|小笠原理恵

旧安倍派の元議員が語る、イランがホルムズ海峡を封鎖できない理由|小笠原理恵

イランとイスラエルは停戦合意をしたが、ホルムズ海峡封鎖という「最悪のシナリオ」は今後も残り続けるのだろうか。元衆議院議員の長尾たかし氏は次のような見解を示している。「イランはホルムズ海峡の封鎖ができない」。なぜなのか。


日本国は宗教に冷淡|上野景文(文明論考家)

日本国は宗教に冷淡|上野景文(文明論考家)

統一教会への解散命令で、政教分離のあり方に注目が集まっている。 日本の政教分離は、世界から見てどうなのか――。


自衛官の処遇改善、先送りにした石破総理の体たらく|小笠原理恵

自衛官の処遇改善、先送りにした石破総理の体たらく|小笠原理恵

「われわれは日本を守らなければならないが、日本はわれわれを守る必要がない」と日米安保条約に不満を漏らしたトランプ大統領。もし米国が「もう終わりだ」と日本に通告すれば、日米安保条約は通告から1年後に終了する……。日本よ、最悪の事態に備えよ!


最新の投稿


米国を破壊するトランプの“ラ米化”|上野景文(文明論考家)

米国を破壊するトランプの“ラ米化”|上野景文(文明論考家)

トランプ政権の下で、混迷を極める米国。 彼の目的は、いったい何のか。 トランプを読み解く4つの「別人化」とは――。


最低賃金引き上げ 髙橋洋一理論の根本的誤り|D.アトキンソン【2025年11月号】

最低賃金引き上げ 髙橋洋一理論の根本的誤り|D.アトキンソン【2025年11月号】

月刊Hanada2025年11月号に掲載の『最低賃金引き上げ 髙橋洋一理論の根本的誤り|D.アトキンソン【2025年11月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


絶対に総理にしてはいけない小泉進次郎|長尾たかし【2025年11月号】

絶対に総理にしてはいけない小泉進次郎|長尾たかし【2025年11月号】

月刊Hanada2025年11月号に掲載の『絶対に総理にしてはいけない小泉進次郎|長尾たかし【2025年11月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


自公連立解消!? 公明党は高市さんともやっていけます|伊佐進一【2025年11月号】

自公連立解消!? 公明党は高市さんともやっていけます|伊佐進一【2025年11月号】

月刊Hanada2025年11月号に掲載の『自公連立解消!? 公明党は高市さんともやっていけます|伊佐進一【2025年11月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


【今週のサンモニ】時間差で起きた谷口真由美vs寺島実郎|藤原かずえ

【今週のサンモニ】時間差で起きた谷口真由美vs寺島実郎|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。