不信任決議案の大騒動の後、川勝知事は「職務に専念する決意は変わらない」などとこれまで通り、知事を続ける意思を明らかにした。また、川勝知事への県民の批判はほとんど見られなかった。
それどころか、1票差とはいえ、絶対に否決されることをわかっていて不信任決議案を提出した県議会最大会派の自民党県議団の責任が問われている。
いくら川勝知事への怒りが大きかったとしても、単なるパフォーマンスに終わり、「自民党県議団の敗北」だけが強く印象づけられた。
別の言い方をすれば、2021年6月の知事選で、33万票余の大差で自民党候補に圧勝した時と同じく、「川勝知事の勝利」が際立ったのだ。
7月3日にNHKが川勝知事の給与等未返上問題を取り上げると、各メディアが一斉に報道した。5日の県議会総務委員会でも議論の対象となった。
このため、11日の定例会見で、川勝知事は給与等返上の条例案を提出する意向を示し、翌日の12日、県議会で表明する方向で調整していることを明らかにした。
11日の会見で、辞職勧告決議を受けた後の2021年12月県議会で、川勝知事は反省を込めた3ページにわたる発言を述べたとして、その1部だけを読んでみせた。
「深く反省している。公人たる知事は公務ではもとより、そうでない場合でも、常にどこでも公人であるという強い自覚を持っている『常時公人』、得意において淡然ということ『得意淡然』、失意において泰然であること『失意泰然』、危機において決然であること『危機決然』、今ここが道場であると『常在道場』と、これを知事心得5カ条となして、これを実行する決意を固めている」などと滔々と述べたのだ
含蓄のある4字熟語を並べたのだが、ただ耳で聞いただけでは、意味を理解できない4字熟語があった。
知事会見中に、この4字熟語の意味すべてを正確に理解できた記者はほぼいなかっただろう。
しかし、このような4字熟語を突然、並べられると、思いがけない知識を試され、もし、それを理解できなければ、それぞれの教養不足を問われる、そんなふうに記者たちは感じてしまうだろう。
つまり、このような4字熟語を並べることが、教養の深さで周囲を圧倒させようとする川勝知事独特の“詭弁術”だと考えたほうがいい。
県議会でも同じ効果を発揮して、内容はともかくとして、ほとんどの議員は川勝知事の“頭の良さ”にただただ感服したのかもしれない。
実際は、川勝知事の術中にはまってしまっただけである。
川勝知事のごまかし発言
会見の翌日、12日の県議会で、川勝知事は「辞職勧告決議は給与返上を求めるものではないとの(自民党県議団らの)意見を踏まえ、返納のための条例案提出を見送った」とした上で、「(5日の)県議会総務委員会で“言行不一致”などの指摘があり、県議会で給与返上の条例を審議してもらえる環境が整った」などと9月県議会に返納のための条例提出を表明した。
考えればわかるが、“言行不一致”の指摘とは川勝知事が自らペナルティを科すとして給与等返上を言明したのに、何もしなかったことに対して総務委員会で批判が巻き起こったのであり、「条例案提出の環境が整った」(川勝知事)わけではない。
だから、川勝知事のごまかし発言をきっかけに、自民党県議団は不信任決議案を提出したのだ。しかし、一般県民にはそのようには理解できない。
自民党が邪魔したから、知事は給与等返上ができなかった、さらに今回の未明に及んだ県議会の大騒ぎも、自民党に非があると一般県民に思い込ませたのだ。
川勝知事の“詭弁”ぶりに感心させられる。民意を得ることがいかに得意なのか、よくわかるのだ。
2019年12月に、川勝知事の思い入れの強い事業に反対する自民党県議団を念頭に、川勝知事は「(事業に)反対する人がいたら県議会議員の資格はない」「県議会にはヤクザもゴロツキもいる」などと暴言を吐いた。利権と結ぶつく保守系政治家などみなヤクザ、ゴロツキと変わらないと思っている人たちは快哉の声を叫んだ。
新聞報道で、川勝知事の暴言を追及されると、最終的には川勝知事は緊急会見を開き、発言をすべて撤回、謝罪した。
一刻も早く対抗馬を
2020年10月の会見で、日本学術会議の任命拒否問題を取り上げ、当時の菅義偉首相に対して、「教養のレベルが図らずも露見した」「学問をされた人ではない」「学問立国に泥を塗るようなこと」など侮辱的な発言をした。菅氏は自民党総裁でもある。
県内外から1千件を超える苦情や批判が寄せられ、自民党県議団が抗議した。川勝知事は「事実認識」に誤りがあったなどと謝罪した。
これ以外にも、リニア問題を巡り、JR東海や国土交通省を刺激するような発言を繰り返してきた。
少なくとも、2019年12月の「ゴロツキ、ヤクザ」発言から知事選まで1年半があった。ところが、2021年6月の知事選の蓋を開けてみれば、自民党県議団は、川勝知事とのリニア論争を避けてしまう“腰抜け”候補しか用意できなかった。当初から川勝知事の圧勝が予想された。
大差で圧勝した川勝知事は県議会で「需要予測や危機管理への疑問が生じ、建設費用が増加する中、リニアの進め方についても立ち止まって見直すべき時だ」などという「反リニア」の主張を行い、多くの県民が拍手喝采を送った。
昨年夏、筆者は『知事失格』(飛鳥新社)を出版して、川勝知事の「命の水を守る」の嘘を明らかにしたが、いまでも川勝知事の「命の水」を盲信する県民はまだ非常に多いのだ。
今回の不信任決議案の否決で、「知事選のゴングが鳴った」とするならば、自民党県議団は2年後を見据えて、公募でも何でもいいから、ちゃんとした候補者を見つけてこなければならない。
県議会最大会派の自民党県議団は、1年交代の県会議長職を独占するなど権力は大きいが、組織としての責任感はあまりにも薄い。
今回同様に自民党県議団のだらしない姿勢が続けば、リニア問題の解決は遠のき、「リニアの進め方について立ち止まって見直すべき時」(川勝知事)が来てしまうのは間違いない。