地質などの調査を行うリニア山梨工区の高速長尺先進ボーリング(JR東海の資料)
都合のよい主張をするため専門家をダシに
県リニア会議に出席した丸井敦尚委員(静岡県庁、筆者撮影)
このようなドタバタの中、県リニア専門部会が4月27日開催され、ウェブ参加した丸井委員が「山梨県の調査ボーリングの湧水が静岡県の地下水である根拠を科学的に示す方法」の提案書を出した。
地下深くの水がどちらの水かを推定する方法があるというのだ。その提案に大喜びした川勝知事はJR東海の検証が重要だと言い出した。
5月に入って、長崎知事が「山梨県の問題は山梨県が責任をもって行う」などと静岡県の対応に怒りを露わにした。
読売新聞記者が「山梨県に出る水は静岡県の水なのか」と聞くと、川勝知事は「それがわかる方法があると丸井先生が言われた。JR東海もそれを検証するという方向で回答したと聞いている」などと、あくまでも丸井委員の検証方法にこだわった。
2度の知事会見で、川勝知事は丸井委員の「山梨県に出る水が静岡県の水である根拠を科学的に示す方法」を検証しなければ、「山梨県の調査ボーリングをやめろ」という主張を変えないというのだ。
現在、JR東海は約6百メートルから千メートルの地下でボーリング調査を行い、県境から約3百メートルの地点へ近づいている。
森貴志副知事は5月11日、「本県が合意するまでは、リスク管理の観点から県境側へ約300メートルまでの区間を調査ボーリングによる削孔をしないことを要請する」などの意見書をJR東海へ送った。
ただ、丸井委員は「最低でも静岡県境までは調査ボーリングをやってほしい。さらに静岡県内に入ってほしい」と述べて、県境手前の300メートルで、「やめろ」などとひと言も言っていないのだ。
逆に、静岡県内の調査ボーリングまでやらなければ、どちらの水か推定できない。そういう検証方法を丸井委員は提案したのだ。
「科学的根拠」を丸井委員の検証方法に求めた川勝知事の「山梨県の調査ボーリングをやめろ」が成り立たなくなった。
つまり、相変わらず、川勝知事は都合のよい主張のために専門家をダシに使ったに過ぎない。
さらに、“引っ張られ理論”の提唱者である静岡市の難波市長が5月24日の会見で、「調査ボーリングは県境まで掘ってもいい。副知事時代から一貫してボーリング調査は構わないと思っている。
県境から300メートル手前で止めることは賛同していない」などと静岡県の対応を批判した。
ところが、川勝知事は5月29日の会見で、「難波市長が県理事を辞められてから、半年以上たち、県専門部会は4回開催している。(その間の事情を承知していないから)森副知事が、科学的工学的に説明すれば、現在の県の懸念を理解してもらえるのでは」などと、難波市長の見解が誤っていると指摘した。
こうなると、静岡県で行われているリニア議論は、科学的でも工学的でもない。
「ああ言えばこう言う」川勝知事とちゃんとやり合える、ふさわしい人材がなかなか見つからないのが悲しいところだ。