NHK受信料や電気代を「自腹」で支払う自衛隊員の悲哀|小笠原理恵

NHK受信料や電気代を「自腹」で支払う自衛隊員の悲哀|小笠原理恵

自衛官候補生採用案内には「入隊後は宿舎での生活となります。居住費はかかりません」と書かれているが、果たして本当なのか。電気ポットや冷蔵庫の電気代だけではなく、テレビがないのにNHKの受信料も徴収されていた――。


職場で社員が携帯の充電や冷蔵庫を利用していたら、その分の電気代を社員に請求する会社があるだろうか。一般社会では当たり前の福利厚生の概念が自衛隊にないのかと調べると、この請求開始の根源は防衛省ではなかった。守銭奴は会計検査院なのである――。

電気代の問題を和田政宗議員が質問

平成18年の決算検査報告において、会計検査院は防衛省に対して「営舎内に居住する自衛官が居室内で使用する電気器具の電気料金を当該自衛官に負担させるなど、基地等における電気料金の支払を適切なものとするよう是正改善の処置」を求めた。

4月24日、参議院決算委員会で「自衛隊の営舎における電気代の問題」について、自民党の和田政宗参議院議員が質問したところ、会計検査院側はこう説明した。

「航空自衛隊において、各基地における私物の電気機器の使用の実態を調査するとともに、これらの使用及び電気料金の負担に関する規程を定め、使用実態に即した電気料金を当該使用者に負担させるなどの処置を求めたものであります」

和田政宗議員は「自衛隊において、営内居住自衛官の私用電気代は何が対象で、どういうふうに算出しているのでしょうか」と質問。これに対して政府参考人は以下のように答弁した。

「営舎内に居住する自衛官の私物品については陸海空各自衛隊においてそれぞれ規則を定めており、生活を営む上で必要最小限のものとされています。その私物品に係る電気代については、電気アイロンやズボンプレッサーなど服務指導上必要なものや定格容量50ワット未満の電気機器については無償としていますが、定格容量50ワットを超える私物の冷蔵庫や電気ポットなどについては所属部隊において電気代を徴収しています。電気代の算出については、事前に機器ごとに定めているひと月当たりの標準使用時間数と個々の電気機器の定格容量から電気使用量を算出し、月々の電気代を算定しております」

筆者はこの金額にも疑問がある。この算定方法では個人使用の電気代が正確に計算できるはずがない。正確とはいえない算定方法で国は個人に請求していいのか。また、他の省庁でも同様に電気ポットを職員が使う場合は請求しているのか。公平性にも疑問が生じる。防衛省だけのルールならば職業差別といってもいいだろう。

さらに和田政宗議員は問題の根幹にあたる質問を防衛大臣にした。

「営舎内に居住する自衛官は、法令によって営舎内に居住することが定められています。ポットや冷蔵庫、私、これは生活必需品と思いますが、こうしたポットや冷蔵庫の電気代、防衛省で負担するべきではないかと考えますが、大臣、いかがでしょうか」

浜田靖一防衛大臣は 「私用電気機器の実態を踏まえた定格容量の見直しなどの検討をこれからしてみたいと考えております」と答弁した。

見直しの検討という言葉は一歩前進だが、ここで自腹負担させないと明言していただきたかった。

関連する投稿


批判殺到!葬祭の準備まで問題視するしんぶん赤旗の空虚なスクープ

批判殺到!葬祭の準備まで問題視するしんぶん赤旗の空虚なスクープ

読者獲得のための宣伝材料にしようと放った赤旗の「スクープ」だったが、批判が殺到!いったい何があったのか? “無理やりつくり出したスクープ”とその意図を元共産党員の松崎いたる氏が解説する。


「ある意味、地獄が待ってます」退職自衛官を苦しめる若年給付金の返納ルール|小笠原理恵

「ある意味、地獄が待ってます」退職自衛官を苦しめる若年給付金の返納ルール|小笠原理恵

ある駐屯地で合言葉のように使われている言葉があるという。「また小笠原理恵に書かれるぞ!」。「書くな!」と恫喝されても、「自衛隊の悪口を言っている」などと誹謗中傷されても、私は、自衛隊の処遇改善を訴え続ける!


【我慢の限界!】トラックの荷台で隊員を運ぶ、自衛隊の時代錯誤|小笠原理恵

【我慢の限界!】トラックの荷台で隊員を運ぶ、自衛隊の時代錯誤|小笠原理恵

米軍では最も高価で大切な装備は“軍人そのもの”だ。しかし、日本はどうであろうか。訓練や災害派遣で、自衛隊員たちは未だに荷物と一緒にトラックの荷台に乗せられている――。こんなことを一体、いつまで続けるつもりなのか。


自衛官の処遇改善、先送りにした石破総理の体たらく|小笠原理恵

自衛官の処遇改善、先送りにした石破総理の体たらく|小笠原理恵

「われわれは日本を守らなければならないが、日本はわれわれを守る必要がない」と日米安保条約に不満を漏らしたトランプ大統領。もし米国が「もう終わりだ」と日本に通告すれば、日米安保条約は通告から1年後に終了する……。日本よ、最悪の事態に備えよ!


なぜ自衛官が集まらないか 元陸幕長と『こんなにひどい自衛隊生活』著者が激突大闘論!|岡部俊哉×小笠原理恵【2025年3月号】

なぜ自衛官が集まらないか 元陸幕長と『こんなにひどい自衛隊生活』著者が激突大闘論!|岡部俊哉×小笠原理恵【2025年3月号】

月刊Hanada2025年3月号に掲載の『なぜ自衛官が集まらないか 元陸幕長と『こんなにひどい自衛隊生活』著者が激突大闘論!|岡部俊哉×小笠原理恵【2025年3月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


最新の投稿


8647―「トランプ暗殺指令」が示したアメリカの病理|石井陽子

8647―「トランプ暗殺指令」が示したアメリカの病理|石井陽子

それはただの遊び心か、それとも深く暗い意図のある“サイン”か――。FBIを率いた男がSNSに投稿した一枚の写真は、アメリカ社会の問題をも孕んだものだった。


【今週のサンモニ】非正規移民に対する認識のズレ|藤原かずえ

【今週のサンモニ】非正規移民に対する認識のズレ|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【今週のサンモニ】日本の農業の大きな闇|藤原かずえ

【今週のサンモニ】日本の農業の大きな闇|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


批判殺到!葬祭の準備まで問題視するしんぶん赤旗の空虚なスクープ

批判殺到!葬祭の準備まで問題視するしんぶん赤旗の空虚なスクープ

読者獲得のための宣伝材料にしようと放った赤旗の「スクープ」だったが、批判が殺到!いったい何があったのか? “無理やりつくり出したスクープ”とその意図を元共産党員の松崎いたる氏が解説する。


【読書亡羊】「台湾系移住民」が経験した古くて新しい問題  三尾裕子『心の中の台湾を手作りする』(慶応義塾大学三田哲学会叢書)|梶原麻衣子

【読書亡羊】「台湾系移住民」が経験した古くて新しい問題 三尾裕子『心の中の台湾を手作りする』(慶応義塾大学三田哲学会叢書)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!