尾崎豊没後31年に想うこと 生き続けることの意味|山岡鉄秀

尾崎豊没後31年に想うこと 生き続けることの意味|山岡鉄秀

尾崎豊がこの世を去ったのは1992年4月25日。尾崎と同い年の私も偏差値に偏重する無味乾燥な管理教育に辟易としていたが、当時の私は、人のバイクを盗んで暴走したり、夜の校舎の窓ガラスを壊して回ったりするのは馬鹿げたことだと思っていた――。(サムネイルはアルバム『ALL TIME BEST』)


局面を変えた、中学時代の恋人からの電話

ここまでの歩みは、尾崎と類似性が高い。しかし、やがて石井の生き方を根本から変える局面が来た。それは、中学時代の恋人からの電話だった。原因不明の難病に罹ってしまった彼女は大学病院に入院し、話し相手を求めて石井に連絡して来たのだった。

彼女との再会は、誰も信じないと誓っていた石井の心を解きほぐし、病室で交際を再開した。しかし、彼女の容体は悪くなる一方だった。20歳になった石井は一念発起し、音楽活動を中断して、完全歩合制のセールスマンとなり、彼女の治療のためにお金を稼ぐ決心をした。

研修を受けて現場に出て2週間後にはトップセールスマンとなり、月収は額面で100万を超えた。彼女を助けるためだという情熱が石井を駆り立てた。難病を抱える彼女と結婚するためにはお金が必要だと思ったのだ。

しかし、彼女の病状はさらに悪化し、緊急入院の後に面会謝絶となる。彼女と会うことはおろか、話すこともできなかった。すっかり落ち込んだ石井に、クリスチャンの上司が祈ってくれた。彼に続いて祈った石井は、自分の中に鬱積した大人や社会に対する怒りや憎しみが流れ去るような感覚を覚えた。神聖な体験だった。石井は教会で丁稚奉公を始めた。

石井の祈りも虚しく、翌年の元旦、彼女が亡くなったという知らせが届いた。彼女の遺影の前で、石井は人目もはばからず嗚咽した。溢れ出る涙の中で石井は、自分の彼女への愛が、実は自分のエゴに過ぎなかったと悟る。石井の人生が大きく転換し、尾崎とは異なる精神世界への道を歩み始めた。

石井は音楽活動を再開するが、以前の復讐心を込めた音楽から、ゴスペルを中心に、神の愛や希望を込めた音楽に変貌していった。

石井は英語を猛勉強する傍ら、仲間数人と共に日本で初めてのフリースクール「寺子屋学園」を設立し、ドロップアウトした子供たちをサポートした。さらに全米フリースクール連合議長パット・モンゴメリーなどと交流しながら、教育分野で活発な活動を行う。

「学校なんて行かなくてもよい」が石井の持論だ。

「15の夜」と「イノセントマン」

その後、石井は新人歌手のバックなどのキャリアを積み、1991年、ポリドール系のレーベルよりデビューを果たす。1993年、ゴスペルミュージカルに魅了され渡米し、カルバリー・チャペルで一般カウンセリング、プリマリタル・カウンセリング、聖書学を学び、インターンを経て、1994年3月、カルフォルニア州認定の牧師の任命を受け、晴れて正規の牧師となった。ロサンゼルスでR&Bシンガーとして活動していた久美子とも結婚した。

尾崎の10代の心の叫びが「15の夜」だとすれば、石井の魂の叫びは「イノセントマン」だろう。

「イノセントマン」

15歳の時は理想主義者だった
世間知らずだったけど 戸惑いもなかった
世界を変えてやると 意気込む夢心に
理想と現実の区別なんてなかった
16歳のときさ 社会の歪みを見せつけられて
とことん失望したのは
夢を少しずつ捨てて行くことこそ
大人になることだときづき始めたんだ

信じてた奴らが大人になり急いで
変わっていくのを 僕はただ見ていた
理想は理想 現実は現実
おまえは純粋馬鹿だと 人々はそう言ったよ

I am an innocent man
I am an innocent man…

関連する投稿


進化する自衛隊隊舎 千僧駐屯地に行ってみた!|小笠原理恵

進化する自衛隊隊舎 千僧駐屯地に行ってみた!|小笠原理恵

かつての自衛隊員の隊舎といえば、和式トイレに扇風機、プライバシーに配慮がない部屋配置といった「昭和スタイル」の名残が色濃く残っていた。だが今、そのイメージは大きく変わろうとしている。兵庫県伊丹市にある千僧駐屯地(せんぞちゅうとんち)を取材した。


変わりつつある自衛官の処遇改善 千僧駐屯地に行ってみた!|小笠原理恵

変わりつつある自衛官の処遇改善 千僧駐屯地に行ってみた!|小笠原理恵

自衛隊員の職務の性質上、身体的・精神的なストレスは非常に大きい。こうしたなかで、しっかりと休息できる環境が整っていなければ、有事や災害時に本来の力を発揮することは難しい。今回は変わりつつある現場を取材した。


終戦80年に思うこと「私は『南京事件』との呼称も使わない」|和田政宗

終戦80年に思うこと「私は『南京事件』との呼称も使わない」|和田政宗

戦後80年にあたり、自虐史観に基づいた“日本は加害者である”との番組や報道が各メディアでは繰り広げられている。東京裁判や“南京大虐殺”肯定派は、おびただしい数の南京市民が日本軍に虐殺されたと言う。しかし、南京戦において日本軍は意図的に住民を殺害したとの記述は公文書に存在しない――。


旧安倍派の元議員が語る、イランがホルムズ海峡を封鎖できない理由|小笠原理恵

旧安倍派の元議員が語る、イランがホルムズ海峡を封鎖できない理由|小笠原理恵

イランとイスラエルは停戦合意をしたが、ホルムズ海峡封鎖という「最悪のシナリオ」は今後も残り続けるのだろうか。元衆議院議員の長尾たかし氏は次のような見解を示している。「イランはホルムズ海峡の封鎖ができない」。なぜなのか。


「ある意味、地獄が待ってます」退職自衛官を苦しめる若年給付金の返納ルール|小笠原理恵

「ある意味、地獄が待ってます」退職自衛官を苦しめる若年給付金の返納ルール|小笠原理恵

ある駐屯地で合言葉のように使われている言葉があるという。「また小笠原理恵に書かれるぞ!」。「書くな!」と恫喝されても、「自衛隊の悪口を言っている」などと誹謗中傷されても、私は、自衛隊の処遇改善を訴え続ける!


最新の投稿


【今週のサンモニ】低次元な高市新総裁批判|藤原かずえ

【今週のサンモニ】低次元な高市新総裁批判|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】ウイグルに潜入したら見えてきた「中国の本当の姿」とは  西谷格『一九八四+四〇――ウイグル潜行』(小学館)|梶原麻衣子

【読書亡羊】ウイグルに潜入したら見えてきた「中国の本当の姿」とは 西谷格『一九八四+四〇――ウイグル潜行』(小学館)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


「ドバイ案件」の黒い噂|なべやかん

「ドバイ案件」の黒い噂|なべやかん

大人気連載「なべやかん遺産」がシン・シリーズ突入! 芸能界屈指のコレクターであり、都市伝説、オカルト、スピリチュアルな話題が大好きな芸人・なべやかんが蒐集した選りすぐりの「怪」な話を紹介!信じるか信じないかは、あなた次第!


【今週のサンモニ】ステマまがいの偏向報道番組|藤原かずえ

【今週のサンモニ】ステマまがいの偏向報道番組|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


チャーリー・カーク暗殺と左翼の正体|掛谷英紀

チャーリー・カーク暗殺と左翼の正体|掛谷英紀

日本のメディアは「チャーリー・カーク」を正しく伝えていない。カーク暗殺のあと、左翼たちの正体が露わになる事態が相次いでいるが、それも日本では全く報じられない。「米国の分断」との安易な解釈では絶対にわからない「チャーリー・カーク」現象の本質。