“習近平帝国”中国でSNS「実名告発」が急増のワケ|宮崎紀秀

“習近平帝国”中国でSNS「実名告発」が急増のワケ|宮崎紀秀

中国で、自らの本名を明かし、職場の上司から受けた性暴力などを告発する女性が相次いでいる。なかには、妻が夫の不倫や不正行為を暴露するケースもある。なぜ、女性たちは実名や素顔を晒してまで告発に走るのか。そこからは現代の中国社会が抱える病理が垣間見えた。


中国の実名告発の“歴史”を遡れば、2018年が大きな転換点となった事実にたどり着く。同年1月1日、北京航空航天大学の博士過程の卒業生である羅茜茜さんが、実名を明かしたうえで、12年前に指導教官だった陳小武教授を告発した。  

自身も含め、複数の教え子たちが性暴力被害を受けていたという過去を暴露したのだった。  

前年には、米新聞ニューヨークタイムズがハリウッドの大物プロデューサーによる女優たちへ性暴力をスッパ抜き、それをきっかけに、「私も」と性暴力の被害者たちが名乗り出る#me too 運動が広がっていた。そのうねりのなかで、中国でも羅さんに続いて女性たちが次々と声を上げ、羅さんの告発は中国版#me too の先駆けと位置付けられた。  

その際、若者たちが、検閲が難しいとされるブロックチェーン(ネットワーク上でデータを分散的に管理する技術)を使ったことも、新たな時代を感じさせた。  

告発の対象は、普段は大義と正義を説く官製メディアや、社会的弱者を守るはずの公益団体の男たちにも及んだ。

中国版#me too運動の挫折

だが残念ながら中国版#me too は、中国社会の体質を根本から動かすほど大きなうねりとなったとは言い難い。中国版#me too の湧き起こった2018年の7月に暴露された国営中国中央テレビの著名キャスターによるセクハラ疑惑の結末だ。  

弦子というアカウント名(実名ではない)の女性が、実習生だった四年前、当時看板キャスターの朱軍氏から体を弄られるなどのセクハラを受けたと告発した。  

弦子は警察に訴え出たものの、警察は同氏の“社会へのプラス面の影響力”を考慮するようになどと諭し、事件を立案しなかったという。  

弦子は告発に続き、同氏をセクハラで提訴した。その行方が海外メディアにも注視されるなかで、北京市海淀区人民法院(地裁に相当)は2021年9月、「証拠が不十分」などとして訴えを棄却した。  

それは、中国共産党の価値観が規範であるこの国の体制の壁が、欧米の女性たちと何ら変わらぬ意識や勇気を抱くようになった若者たちの前に立ちはだかり、中国版#me too を挫折させた瞬間にも見えた。

中国当局は不都合な人物を「消す」

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