負ければ悲劇を繰り返し、尊い命が失われる
ソ連時代からロシアは諜報活動・情報統制に長けており、そこでは情報収集と分析・評価を行った上で、情報誘導や攪乱、はては暗殺・暴行・脅迫などを含めた強行策を行う。政権に不都合な意見をもつ人物の暗殺がウクライナへの軍事侵攻を契機に増えてきた。
9月1日に、ロシア2位の石油大手ルクオイルのラヴィル・マガノフ会長(67)がモスクワ市内の病院の窓から転落し、死亡した。ルクオイルはマガノフ会長の死は認めたものの、その死因は「重病の末」と説明している。発表に微妙な齟齬があることが、内外に様々な憶測をよんでいる。
同社では、5月にも役員のアレクサンデル・スボティン氏がシャーマン(宗教的職能者)を訪問した後、モスクワ近郊で死亡した。CBSニュースはこのアレクサンデル・スボティン氏はシャーマン治療中に使われたヒキガエルの毒で殺害されたのではないかと報じている。
他にも極東・北極圏開発公社(KRDV)社長が脳卒中で死亡。ガスプロムの金融証券部門副理事が遺書を残して自殺、実業家ミハイル・ワトフォード氏が邸宅のガレージで死亡。さらに、9月21日にはロシアのモスクワ航空研究所の元所長のアナトリー・ゲラシチェンコ氏が事故死した。
ノーベル平和賞受賞の独立系新聞、「ノーバヤ・ガゼータ」の編集長も3月に列車内で何者かに赤い塗料を浴びせられた――。
旧ソ連の諜報機関KGBを引き継いだのはFSB(ロシア連邦保安庁)だ。プーチン大統領は16年間KGBに所属した後、FSBの長官も経験している。プーチン大統領はウクライナへの軍事侵攻へ抗議する活動家をあぶりだし拘置所に収容している。
さらに、ウクライナや支配地域に住むウクライナ人を拘束し、スパイに変えて再びウクライナに送り込んでいるという。ロシアの占領地域に入れば、拘束された家族を人質にウクライナを攻撃する兵士にされるか、スパイにされるか、収容所に送られるか冷酷な選択肢が待っている。
ロシアに苦しめられてきたウクライナは、命の限り戦い続ける覚悟をしているのではないか。負ければ悲劇を繰り返し、尊い命が失われることを誰よりも知っているからだ。世界は日本が想像するほど善良ではない。ウクライナへの軍事侵攻の報道が、鈍化した危機感を目覚めさせた。
今こそ、国防力強化が急務である。