【読書亡羊】「犠牲者・被害者ポジション」は最強なのか 林志弦著・澤田克己訳『犠牲者意識ナショナリズム』(東洋経済新報社)

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その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする週末書評!


「日本人が被害者? 許せん!」

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何が問題視されたのか。かいつまんでいえば「本書には日本側の被害だけが書かれており、あたかも日本こそが本当の被害者であるかのように思わせる」というものだった。

林教授も指摘するように、ある面では日本人が被害者的、韓国人が加害者的な立場に立たされることもある。だが、「遠距離ナショナリズム」を取り込み、「犠牲者意識ナショナリズム」を育んだ韓国の人々にとって、日本人が見舞われた悲劇の物語は、許しがたいものとなった。デマまで使って本書の内容を「虚偽」と決めつけたがる韓国世論の本音を、林教授はこう語る。

 心の底には「日本イコール加害者」「韓国イコール被害者」という二分法が揺らぐことへの当惑があった。道徳的な拠り所としてきた犠牲者意識ナショナリズムが、本に描かれた「韓国人加害者」のイメージによって損なわれることへの怒りと不快感が感じ取れる。
 その怒りは歴史的な真実と嘘に対するものというより、犠牲者民族という自らの集団的アイデンティティが揺らぐことへの存在論的な不安の表現だ。

これなどは、安倍元首相銃撃事件後の一部のパニック状態の説明としても筋が通りそうだ。

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