安倍元総理の遺志を完全に無視した岸田人事|山口敬之【WEB連載第14回】

安倍元総理の遺志を完全に無視した岸田人事|山口敬之【WEB連載第14回】

私は今回の人事に「大いなる異変」を見てとる。「優柔不断から唯我独尊へ」。安倍晋三元総理という重石から解放された岸田文雄という政治家が、その本性を剥き出しにした「岸田の岸田による岸田のための政治」の始まりである――。 (サムネイルは首相官邸HPより)


大手メディアを敵に回さない「ぬるま湯政治」

ところが今回、岸田総理の人事の進め方は、2000年以前の旧態然としたスタイルに完全に先祖返りした。

派閥からの推薦を受け付け、その中で誰を起用するかを前日までに派閥の領袖と本人に登用ポストを含めて告知した。

今回、新入閣組が9人に上ったのも、「大臣待機組」を多く抱える派閥の要請に従ったためである。

そしてあろうことか、その人事の内容を官邸のメンバーが直接大手メディアに耳打ちしたこともわかっている。

だからこそ今回はほとんど全ての新聞・通信・テレビ局が、組閣の朝までに人事の全容を正確に報道することができた。

スクープも大誤報もない、各社横並びの「ぬるま湯メディア」に逆戻りしたとも言えるが、各社の政治部長やデスクからは安堵の声が漏れている。
 
こうした経緯を見れば、岸田総理は今後「派閥」と「大手メディア」を敵に回さない、「ぬるま湯政治」「永田町護送船団方式」を指向していくことは明らかである。

そしてそこで犠牲にされたのは、政治とメディアの間に必要不可欠な「緊張感」であり、自民党の因襲悪弊から脱皮していこうという「改革の機運」である。

安倍元総理「高市政調会長は続投させて欲しい」

Getty logo

死の直前、安倍元総理は参院選後の人事について、2人の人物が続投するかを気にしていた。
高市早苗と林芳正である。

安倍元総理は昨年の総裁選後、高市氏を安倍派に戻そうと考えていた。しかし安倍派の幹部や中堅から強い異論が出て断念せざるを得なくなった。

しかし、総裁選での弁舌やその後の政調会長としての毅然とした発信で保守層の期待を一手に引き受けるようになっていた高市氏のことを、安倍元総理は「保守のライジングスター」と呼んで高く評価していた。

そして、無派閥で党内基盤が弱い高市氏の今後を考え、安倍元総理が思いついたのが政調会長室に「チーム高市」を結集することだったのだ。

安倍元総理の強力な後押しで総裁選出馬を果たした高市氏は、選挙戦を通じて多くの保守系議員の心を捉えた。

最初は「安倍さんに指示されたから」と高市陣営に入った安倍派の面々の中にも、高市氏の確固たる保守思想と政策論に惚れ込んだものが少なからずいた。

そして古屋圭司、高鳥秀一、杉田水脈、長尾敬といった安倍派のみならず、経世会の木原稔や小野田紀美など派閥を超えた「真・チーム高市」が塊となっていた。

この中心メンバーの多くを政調会長室に結集させたのである。だから安倍元総理は死の直前まで、岸田総理に対して「高市政調会長は続投させて欲しい」ということを様々な形で伝えていた。

関連する投稿


トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

米国大統領選はトランプ氏が圧勝した。米国民は実行力があるのはトランプ氏だと軍配を上げたのである。では、トランプ氏の当選で、我が国はどのような影響を受け、どのような対応を取るべきなのか。


我が党はなぜ大敗したのか|和田政宗

我が党はなぜ大敗したのか|和田政宗

衆院選が終わった。自民党は過半数を割る大敗で191議席となった。公明党も24議席となり連立与党でも215議席、与党系無所属議員を加えても221議席で、過半数の233議席に12議席も及ばなかった――。


衆院解散、総選挙での鍵は「アベノミクス」の継承|和田政宗

衆院解散、総選挙での鍵は「アベノミクス」の継承|和田政宗

「石破首相は総裁選やこれまで言ってきたことを翻した」と批判する声もあるなか、本日9日に衆院が解散された。自民党は総選挙で何を訴えるべきなのか。「アベノミクス」の完成こそが経済発展への正しい道である――。


石破新総裁がなぜ党員票で強かったのか|和田政宗

石破新総裁がなぜ党員票で強かったのか|和田政宗

9月27日、自民党新総裁に石破茂元幹事長が選出された。決選投票で高市早苗氏はなぜ逆転されたのか。小泉進次郎氏はなぜ党員票で「惨敗」したのか。石破新総裁〝誕生〟の舞台裏から、今後の展望までを記す。


新総理総裁が直ちにすべきこと|島田洋一

新総理総裁が直ちにすべきこと|島田洋一

とるべき財政政策とエネルギー政策を、アメリカの動きを参照しつつ検討する。自民党総裁候補者たちは「世界の潮流」を本当に理解しているのだろうか?


最新の投稿


【今週のサンモニ】反原発メディアが権力の暴走を後押しする|藤原かずえ

【今週のサンモニ】反原発メディアが権力の暴走を後押しする|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】臆面もなく反トランプ報道を展開|藤原かずえ

【今週のサンモニ】臆面もなく反トランプ報道を展開|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

米国大統領選はトランプ氏が圧勝した。米国民は実行力があるのはトランプ氏だと軍配を上げたのである。では、トランプ氏の当選で、我が国はどのような影響を受け、どのような対応を取るべきなのか。


【今週のサンモニ】『サンモニ』は最も化石賞に相応しい|藤原かずえ

【今週のサンモニ】『サンモニ』は最も化石賞に相応しい|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。