大手メディアを敵に回さない「ぬるま湯政治」
ところが今回、岸田総理の人事の進め方は、2000年以前の旧態然としたスタイルに完全に先祖返りした。
派閥からの推薦を受け付け、その中で誰を起用するかを前日までに派閥の領袖と本人に登用ポストを含めて告知した。
今回、新入閣組が9人に上ったのも、「大臣待機組」を多く抱える派閥の要請に従ったためである。
そしてあろうことか、その人事の内容を官邸のメンバーが直接大手メディアに耳打ちしたこともわかっている。
だからこそ今回はほとんど全ての新聞・通信・テレビ局が、組閣の朝までに人事の全容を正確に報道することができた。
スクープも大誤報もない、各社横並びの「ぬるま湯メディア」に逆戻りしたとも言えるが、各社の政治部長やデスクからは安堵の声が漏れている。
こうした経緯を見れば、岸田総理は今後「派閥」と「大手メディア」を敵に回さない、「ぬるま湯政治」「永田町護送船団方式」を指向していくことは明らかである。
そしてそこで犠牲にされたのは、政治とメディアの間に必要不可欠な「緊張感」であり、自民党の因襲悪弊から脱皮していこうという「改革の機運」である。
安倍元総理「高市政調会長は続投させて欲しい」
死の直前、安倍元総理は参院選後の人事について、2人の人物が続投するかを気にしていた。
高市早苗と林芳正である。
安倍元総理は昨年の総裁選後、高市氏を安倍派に戻そうと考えていた。しかし安倍派の幹部や中堅から強い異論が出て断念せざるを得なくなった。
しかし、総裁選での弁舌やその後の政調会長としての毅然とした発信で保守層の期待を一手に引き受けるようになっていた高市氏のことを、安倍元総理は「保守のライジングスター」と呼んで高く評価していた。
そして、無派閥で党内基盤が弱い高市氏の今後を考え、安倍元総理が思いついたのが政調会長室に「チーム高市」を結集することだったのだ。
安倍元総理の強力な後押しで総裁選出馬を果たした高市氏は、選挙戦を通じて多くの保守系議員の心を捉えた。
最初は「安倍さんに指示されたから」と高市陣営に入った安倍派の面々の中にも、高市氏の確固たる保守思想と政策論に惚れ込んだものが少なからずいた。
そして古屋圭司、高鳥秀一、杉田水脈、長尾敬といった安倍派のみならず、経世会の木原稔や小野田紀美など派閥を超えた「真・チーム高市」が塊となっていた。
この中心メンバーの多くを政調会長室に結集させたのである。だから安倍元総理は死の直前まで、岸田総理に対して「高市政調会長は続投させて欲しい」ということを様々な形で伝えていた。