「稲田朋美落選運動」とは何だったのか
第四章には月刊『Hanada』も登場する。稲田朋美議員に関する記述だ。
稲田議員は憲法改正派であり、歴史認識問題でも一歩も引かなかった「保守派」だが、近年のLGBT理解増進法や、結婚前の名字を公的に使うための婚氏続称制度の提案、ひとり親支援などの取組みが「左派的」とみなされ、保守派からの批判にさらされた。
本書では、批判どころか大々的な落選運動までが展開されたことが紹介される。その落選運動には月刊『Hanada』掲載の稲田批判記事が使われ、落選運動の主体については「保守派」とだけ説明されている。
LGBT理解増進法は自民党内の一部保守派の強硬な反対によって却下されたが、教義として家庭を重んじ、反LGBTを掲げる統一教会が自民党を牛耳っているとすれば、こうした法案が党内で検討されるはずもない。
しかも稲田議員はむしろ統一教会の関連団体が主催するイベントに出席したことのある立場であり、そうした人物であっても自分のやるべき仕事と見定めてLGBT理解増進法を推進した。同法反対派には統一教会の影響があった可能性はあるが、この件をみても「統一教会が自民党を牛耳っている」という物言いがおかしいことが分かるだろう。
自民党の吸引力は持続するか
本書では自民党を、安倍政権期に少し変化があったものの、基本的には「人間関係中心の非イデオロギー政党」と位置付けている。
本書では指摘はないが、その「人間関係」の中に、地元の自治会や宗教団体とのつながりが内包されてはいるだろう。もちろん、そうした中には、法や社会常識に反する活動を組織として行っている団体もあるかもしれない、という警戒は必要だ。
しかし宗教団体の影響力や集票力は、いまや限定的とみるほかない。
それどころか、今回の参院選では、岡山選挙区で公明党の推薦を断った小野田紀美議員が当選している。今後はむしろ「特定の宗教団体票に頼らない」という宣言が、一般の票を集める触れ込みにもなることを示している。
特定の色や背景を持たない人たちの政治参加は本来、喜ぶべきことのはずだが、そうも言い切れない兆候も見えてきている。一般票の支持の行く先が、暴露系youtuberや、反科学的論調を掲げる政党では先行きが不安だ。若者は町内会にも入らず、人間関係そのものが希薄になるこれからの日本の政治の風景を思わずにはいられない。
「決して自民党支持者ではなかったけれど、権力へのあくなき執念を抱く自民党が、清も濁も飲み込み地元を巻き込む魔力のような吸引力を持続していた頃はまだましだった」……ということにならなければいいのだが、と不吉な読後感を残す一冊としても読めてしまうのだった。