テレビも「風評」に加担
福島に放射能の「風評被害」をもたらすのは、新聞だけではありません。昨年8月6日に放送されたテレビ朝日の「ザ・スクープスペシャル」の特別番組では、当初「ビキニ事件63年目の真実~フクシマの未来予想図~」というタイトルになっていました。
「フクシマ」という片仮名をタイトルで使い、20回以上も核実験が行われたビキニ環礁と福島を同列に扱う番組を「フクシマの未来予想図」として放送するテレビ朝日の報道姿勢に対して、全国からの批判が殺到。番組のタイトルから「フクシマの未来予想図」という文言は削除されました。
実際に放送された「ビキニ事件63年目の真実」の番組内では、ビキニ環礁から約180km離れたロンゲラップ島に行き、「1957年、米国が発した安全宣言によって島民たちは帰島を始めたが、そこから新たに悲劇が始まった」「島の環境は放射能によって汚染されたままで、若者は白血病で亡くなり、女性は死産や流産を繰り返した」という島民の証言を取り上げました。
しかし、証言が中心の番組構成となっているため、科学的な客観的データに乏しく、もちろん福島県の未来予想図とは全くかけ離れています。
さらに、取材に同行した日本原子力研究開発機構元技術者の加藤岑生氏(現・原水爆禁止茨城県協議会会長)が、線量計を地面に「直置き」して計測する様子が放送されています。線量計は0.042μSv/hという数値を示し、加藤氏はこれを「高い」と発言するシーンがありますが、そもそも線量計を地面に直置きする計測の仕方は間違っています。
空間線量の測定は地面から100センチ離して計測します。直接地面に直置きすれば、本来はガンマ線のみ測定するはずが、ベータ線やアルファ線など他の放射線を拾ってしまい正しい数値が出てきません。
線量計の直置きを例えるならば、部屋の温度を図る際にエアコンの入り口に直接温度計を差し込むようなものです。
ちなみに、日本人が1年間に自然界から受ける平均放射線量(1.5mSv)は世界の平均(2.4mSv)よりも低く、仮に普段から空間線量が0.042μSv/hの地域に住んでいたとしても、被曝量は世界平均を下回ります。
むしろ加藤氏とテレビ朝日の番組スタッフがビキニ環礁へ向かうために乗った移動中の飛行機の方が、被曝量が多いのは間違いありません。