ロシアが狙うウクライナ原発の順次制圧と運転停止|奈良林直

ロシアが狙うウクライナ原発の順次制圧と運転停止|奈良林直

ウクライナでは電力の51%を原発が供給している。他の原発も順次制圧されて、運転停止に追い込まれる可能性が大きい。寒い時期の停電は国家の存続を危うくする。


3月4日未明、ロシア軍がウクライナ南部のザポリージャ原子力発電所の敷地内に侵入し、同原発を制圧した。ここはウクライナにある原子炉15基のうち6基を持ち、合計出力600万キロワット(kW)の欧州最大の原発だ。ウクライナでは電力の51%を原発が供給している。ロシアはウクライナの石油施設や天然ガスパイプラインも攻撃しており、国内のエネルギー供給を途絶させ、ゼレンスキー政権を降伏させるプロセスを進めている。

Getty logo

軍の侵入で所員の職務遂行困難に

国際原子力機関(IAEA)はウクライナの原発に戦禍が及ぶことを早い段階から警戒していた。ロシア軍が侵攻した2月24日、グロッシ事務局長は、IAEA総会が2009年に「平和利用目的の原子力施設に対する武力攻撃や威嚇は、国連憲章、国際法、IAEA憲章の諸原則に違反する」という決議を採択したことを強調している。

3月1日、ロシアからIAEAに対し、ザポリージャ原発の周辺をロシア軍が掌握したとの通告があった。地元民は発電所へ向かう高速道路を埋め尽くし、バリケードを築いて原発を守ろうとしたが、ロシア軍はその地元民を砲撃し、原発敷地内に軍事車両を侵入させ、同原発を事実上の運転停止に追い込んだ。

ザポリージャ原発の原子炉は6基とも旧ソ連で開発されたVVER-1000と呼ばれる加圧水型原子炉で、西欧並みの安全対策を講じていた。核分裂反応が急増する極めて重大な事故を起こした旧ソ連(現ウクライナ)のチェルノブイリ原発の黒鉛型炉RBMK-1000とは異なる。

現地時間4日朝のザポリージャ原発の運転状況は次の通りだ。

1号機:運転停止中。2号機と3号機:送電網から切り離し、冷却作業中。

4号機:出力を69万kWに落として運転中。5号機と6号機:冷却状態。

この運転状況から分かるのは、原子炉を送電系統から切り離して、運転を停止する作業中であるということだ。4号機だけ出力を3割低下させて運転を継続し、他の5基に電力を供給している。これは、完全に6基とも停止してしまうと、非常用ディーゼル発電機に頼ることになるが、戦争状態では、長期間にわたり発電機に燃料を補給することは困難だからである。福島第一原発事故と同様に「全交流電源喪失」「炉心冷却機能喪失」に陥ると、メルトダウン(炉心融解)に至る。5日の声明でグロッシ事務局長が強調したように「原発所員が安全かつ確実に仕事を遂行」できるように、ロシア軍に原発や所員へ手出しさせないことがどうしても必要だ。

国民生活と経済に大打撃

関連する投稿


旧安倍派の元議員が語る、イランがホルムズ海峡を封鎖できない理由|小笠原理恵

旧安倍派の元議員が語る、イランがホルムズ海峡を封鎖できない理由|小笠原理恵

イランとイスラエルは停戦合意をしたが、ホルムズ海峡封鎖という「最悪のシナリオ」は今後も残り続けるのだろうか。元衆議院議員の長尾たかし氏は次のような見解を示している。「イランはホルムズ海峡の封鎖ができない」。なぜなのか。


ヨーロッパ激震!「ロシア滅亡」を呼びかけたハプスブルク家|石井英俊 

ヨーロッパ激震!「ロシア滅亡」を呼びかけたハプスブルク家|石井英俊 

ヨーロッパに君臨した屈指の名門当主が遂に声をあげた!もはや「ロシアの脱植民地化」が止まらない事態になりつつある。日本では報じられない「モスクワ植民地帝国」崩壊のシナリオ。


自衛官の処遇改善、先送りにした石破総理の体たらく|小笠原理恵

自衛官の処遇改善、先送りにした石破総理の体たらく|小笠原理恵

「われわれは日本を守らなければならないが、日本はわれわれを守る必要がない」と日米安保条約に不満を漏らしたトランプ大統領。もし米国が「もう終わりだ」と日本に通告すれば、日米安保条約は通告から1年後に終了する……。日本よ、最悪の事態に備えよ!


日本人宇宙飛行士、月に行く|和田政宗

日本人宇宙飛行士、月に行く|和田政宗

今年の政治における最大のニュースは、10月の衆院選での与党過半数割れであると思う。自民党にとって厳しい結果であるばかりか、これによる日本の政治の先行きへの不安や、日本の昨年の名目GDPが世界第4位に落ちたことから、経済面においても日本の将来に悲観的な観測をお持ちの方がいらっしゃると思う。「先行きは暗い」とおっしゃる方も多くいる。一方で、今年決定したことの中では、将来の日本にとても希望が持てるものが含まれている――。


新総理総裁が直ちにすべきこと|島田洋一

新総理総裁が直ちにすべきこと|島田洋一

とるべき財政政策とエネルギー政策を、アメリカの動きを参照しつつ検討する。自民党総裁候補者たちは「世界の潮流」を本当に理解しているのだろうか?


最新の投稿


【今週のサンモニ】いつまでも進歩しない国家防衛思考|藤原かずえ

【今週のサンモニ】いつまでも進歩しない国家防衛思考|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


教科書に載らない歴史|なべやかん

教科書に載らない歴史|なべやかん

大人気連載「なべやかん遺産」がシン・シリーズ突入! 芸能界屈指のコレクターであり、都市伝説、オカルト、スピリチュアルな話題が大好きな芸人・なべやかんが蒐集した選りすぐりの「怪」な話を紹介!


旧安倍派の元議員が語る、イランがホルムズ海峡を封鎖できない理由|小笠原理恵

旧安倍派の元議員が語る、イランがホルムズ海峡を封鎖できない理由|小笠原理恵

イランとイスラエルは停戦合意をしたが、ホルムズ海峡封鎖という「最悪のシナリオ」は今後も残り続けるのだろうか。元衆議院議員の長尾たかし氏は次のような見解を示している。「イランはホルムズ海峡の封鎖ができない」。なぜなのか。


「医療の壁」を幸齢党がぶっ壊す!|和田秀樹

「医療の壁」を幸齢党がぶっ壊す!|和田秀樹

高齢者のインフルエンサーと呼ばれ、ベストセラーを次々と出してきた和田秀樹氏が「幸齢党」を立ち上げた。 なぜ、いま新党を立ち上げたのか。 「Hanadaプラス」限定の特別寄稿!


【今週のサンモニ】バンカーバスターは何を破壊したのか|藤原かずえ

【今週のサンモニ】バンカーバスターは何を破壊したのか|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。