筆者は2013年9月、福島県の被災者ら約30人と共にウクライナを訪問し、1986年に事故を起こしたチェルノブイリ原子力発電所や、ゴーストタウンになったプリペチャ市、新しく建設された住民2万4700人のスラブチッチ市、首都キエフの放射線医学病院とチェルノブイリ博物館を視察した。
その放射線医学病院の院長、内科医、精神科医から、福島県の被災者へ向けて、「放射能汚染よりも情報汚染の方がはるかに危険だから、福島でも気を付けるように」とのアドバイスを受けた。情報汚染とは、過度のマスコミ報道や議員の発言などのことで、「風評被害」や被災した子どもたちへのいじめが起きた。
福島県でも住民を今も苦しめているのは、津波や原発事故に続く風評被害である。5人の元首相は、事実に基づかない風評被害を発生させかねない誤ったメッセージを世界に送った。
ちなみに、ウクライナで人々の暮らしと経済を救ったのは、原発の再稼働であった。( 2022.02.07国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)
国基研理事、東京工業大特任教授。1952年、東京都生まれ。東京工業大理工学研究科原子核工学修士課程修了。専門は原子炉工学。東芝に入社し原子力の安全性に関する研究に従事。同社電力・産業システム技術開発センター主幹などを務め、2007年に北海道大大学院教授に就任。同大大学院名誉教授・特任教授を経て現職。