北京五輪への全面協力を表明
駐日中国大使館の公式サイトによると、この会議で孔大使は林氏らと新年の挨拶を交わし、日中両国の交流と協力を同意しあった。しかも林氏は他の友好団体の代表とともに以下の言葉を述べたというのだ。
「中国のコロナ対策や経済成長の成果を積極的に評価し、北京冬季オリンピックに協力し、両国の世論基盤を改善して、友好事業を絶えず新たに発展させ、良好な雰囲気で2022年の日中国交正常化50周年を迎えたい」
まさに中国への全面協力の言辞である。林氏は北京オリンピックに対して全面協力を約束していたのだ。この言動の事例一つをとっても、林芳正という政治家がいまの日本の外務大臣になることへの適性が疑われてくる。
中国で開催される2022年2月の北京冬季オリンピックに対しては、中国政府の人権弾圧の多数の事例を理由に、アメリカ・バイデン政権は21年12月7日、外交ボイコットを決めたと発表した。オーストラリアやカナダも同じ措置を決めた。イギリス、リトアニアなどヨーロッパ諸国も多くが同様のボイコットへと傾いている。
自由民主主義を標榜する米欧諸国では北京五輪への無条件参加は中国の人権弾圧への黙認につながるとして、バイデン政権のように少なくとも政府代表が北京五輪には加わらない外交ボイコットを提唱する声が広がっていた。
岸田政権は中国の人権弾圧は無視しないという姿勢を明確にして、人権問題担当の首相補佐官を初めて設けたばかりである。その補佐官となった中谷元氏は、中国政府のウイグル人弾圧などに対して、議員としては果敢な批判を表明してきた。そんな岸田内閣の外相という中枢に林氏が就任したわけだ。
アメリカのバイデン政権は同盟国の日本にも中国への強固な姿勢の同調を水面下では求めるだろうが、その際に日本の外相が親中一辺倒、北京五輪へもいち早く条件なしの協力を約していたとなると、アメリカ側も当惑するだろう。
中国に抗議・反対を全くしない日中友好議員連盟
林芳正氏はそもそもどんな経緯で日中友好議員連盟の会長になったのだろうか。
林氏は山口県の名門政治家の家に生まれ、1995年に参議院議員選挙で当選して以来、五期在任、その間、防衛大臣や農林水産大臣を務めたベテランである。だが21年11月の総選挙では衆議院に転じて当選した。首相の座を目指すため、と観測される動きだった。
林氏はハーバード大学院修了やアメリカ議会上院でのスタッフ補佐の体験があり、知米派とされてきたが、近年は中国との接触に努めてきた。その理由の一つは父親の自民党長老だった林義郎氏が中国との縁が深く、日中友好議員連盟の会長も務めたことだとされている。
林芳正氏が2017年12月、日中友好議員連盟の会長になったときの同連盟の会合には当時の日本駐在の中国大使、程永華氏が出席して、林氏への祝辞などを述べていた。
駐日中国大使館の公式サイトの記録によると、程大使はこの演説で中国と日本は「平和、友好、協力への大方向の下に一帯一路の推進に協力して、中日関係の前向き善意の政策をとる」と強調した。
そのうえで程大使は林氏の同議連会長就任を祝って次のように述べたという。
「日中議連が林芳正新会長の積極的で力強い指導の下、引き続き優れた伝統を発揚するとともに朝野各党のより多くの若い政治家を迎え入れ、一層豊かで多様な交流活動を繰り広げ、中国の発展に対する日本各界の客観的認識をけん引し、中日実務協力、中日友好促進のために一層積極的な役割を果たすよう期待している」
以来、4年余り、日中関係は中国側の規範破りの行動によって悪化した。日本に直接に影響する動きとしては中国の武装艦艇による尖閣諸島の日本領海への継続的な侵入、中国で活動する日本企業への不透明な圧力、日本人の学者や企業人の理由を公表しないままの逮捕や拘束、年来の反日教育の継続などだった。
さらに中国当局によるウイグル人やチベット民族の弾圧、香港での民主主義の抑圧、台湾への武力での威嚇など国際的な規則違反も目立ってきた。
しかし中国側との接触が日本側でも最も頻繁なはずの日中友好議員連盟はこうした諸点についての中国側への抗議や反対をまったく表明しない。
実は私自身、外相就任直後の林氏にこの点を質問したことがある。BSフジのプライムニュースという討論番組に林氏とともに私も招かれ、直接に話しあう機会があったのだ。
林氏はこの種の日本側の主張について「中国側に非公式には伝えている」という趣旨を述べた。だが非公式では意味がないのだ。日本国として表面で、公式に、オープンな形で日本の主張を述べなければ、なんの効果もない。日本側のだれが、いつ、どこで、中国側のだれに、なにを伝えたのか、具体性がなければ、そんな主張が果たしてあったのかも、疑わしくなる。
要するに日中友好議員連盟が、中国政府に抗議や反対を公式に述べたことはないとの記録はそのままなのである。