風評被害に対する謝罪はなし!
オオカミがきたよって。なんで。なんで逃げないの?
(写真提供/Avalon/時事)
話術が巧みとはいえ、思うようにいかないこともあるようです。街頭演説は聴衆から質問を受け付けて答えるスタイルをとっているのですが、ある男性からこんな言葉を浴びせられました。
「ようこそ福島へ。山本太郎さん、いま、ここにいるの、怖いですか。県民は真面目に物を作って、真面目に米を作って、でも米売れないんですよ。それはなぜか。風評被害があるからです。山本さんのツイッターを見れば『怖い、危ない』と危険を煽って……。だから福島は危ないところなんだ、と全国民は思ってしまうんですよ。それが政治家の役目なんですか」
これに対し、語気を強めてこう言ってのけたのです。
「たしかにそれが風評被害ならば、私は煽るべきではないと思っています。ただ、原発事故によって起こったこの福島の状況は風評ではなく、実害なんですよ。もう国会のなかでは、ほとんど原発のことも被曝のことも語られなくなってきているんですよ。私は泣き寝入りさせたくないんです。だって、これは皆さんが起こした事故じゃないんですよ」
再び、「精いっぱいのなかで『逃げてください』という話をしちゃった」と話を振り出しに戻し、持論を展開させます。
「2011(平成23)年の空間線量、特別高かったですよね。私が政府だったら、いっときであろうと全国に分散して避難をしていただいて、いったん放射線量が下がった段階でもう一度、情報を提示しますから、戻られる方、戻られない方、いろいろですよ、それぞれで。それぞれ個人で具体的に決められるような情報を提示しますって。それをやってほしかった」
ダメ押しのように、「言葉をもっと選べばよかった。もっと違うアプローチがあったんじゃないかって。いまだから思える。未熟でしたよ。いまも未熟です。粗削りです。でも私がいま、発言している国会の内容は、申し訳ないですけど風評被害ではない。実害のほうに対して逃さない。それをどうするのかってことをやっているのです」云々。
「風評ではなく実害」。この言葉もよく聞かれます。そう言われるとそんな気になってしまうかもしれませんが、よくよく考えると訳の分からないロジックです。「自分は風評をまき散らしたわけではなく、国や東電が実害を起こした」と言いたいのでしょうが、正しくは「彼がまき散らした風評が福島県民にとって実害となった」ですね。
福島市内での街頭演説では「謝らなければならないのはそれだけじゃない」と語り、「逃げてくれ」発言以外についても言及しています。それはこれです。
「これまで電力を使い続けてきた。どこから電気が来ているかなんて知らなかった。地方を踏みつけてでも大都会に電気を送るというシステムが原発だった。金で黙らせてきた。札束で黙らせてきた。不健全な形で使い続けていかなきゃならないような状況を作り出してきた」
「そんなことも知らずに、何のありがたみも感じずに電気を使い続けてきた。東京のために大変な思いをされた福島の方々に、東京都民の一人としておわびしたいです」
「原発立地地域の住民を札束で黙らせてきた」と言わんばかりです。極めて失礼な発言です。福島県民のなかには、深くプライドを傷つけられた人がいたのではないでしょうか。
結局、終わってみれば、風評被害に対する謝罪はなし。自分の言いたいことばかりを声高に叫び、誠意を見せているようでいて、その実、福島県民の自尊心をズタズタにしている。それが実態ではないでしょうか。
「原発ゼロ」も空理空論
エネルギー政策についても見ていきましょう。れいわ新選組のホームページを見ると、「エネルギーの主力は火力」と書いてあります。2019年11月の福島県郡山市での街頭演説では、もう少し詳細に語っています。
「原発で安全でいるというのはあり得ない。原発に頼らないエネルギーといえば、現実をみつめれば、火力でしばらくつなげていくしかない。当然のことです。自然エネルギーのインフラですべてを賄うのは無理だと思っています。蓄電の技術などを考えれば。しかし、火力のなかでも環境への負荷が少ない液化天然ガスとかを使う」
液化天然ガス(LNG)を使うことに異論はありません。石油に比べて中東への依存度は低いですし、燃焼時の二酸化炭素(CO2)排出量が少ないのも大きなメリットです。
しかし資源エネルギー庁などによると、LNGの買い手は、LNGの調達量や調達期間を柔軟に調整できないという問題があるようです。LNGを輸出するためには天然ガスを液化する施設が必要で、これに非常に多額な初期投資が必要なのです。液化施設の事業主は15年や20年などの長期契約を買い手に求めることで、多額な投資を可能にしてきたわけです。
日本のLNGの買い手である電力・ガス事業者は、平成28年4月以降の「電力・ガス市場の小売り全面自由化」で競争が激化し、調達量について柔軟に対応したいと考える傾向があります。しかし、短期間での売買は容易ではない。課題は少なくありません。
技術的な話になってしまいましたが、要は「言うは易く行うは難し」の世界なのです。自然エネルギーですべてを賄うのは、たしかに現実的ではありません。結局は、原発を含めエネルギー源を多様化させるのが現状では現実的な選択と言えます。LNGは伝家の宝刀ではないのです。
平成25年7月22日に放送された報道情報番組「情報ライブ ミヤネ屋」(読売テレビ系)で、司会の宮根誠司は参院選初当選直後の山本に「じゃあ原発を止めよう、その代わり、極端な話、江戸時代の暮らしに戻しましょう、なのか。その辺の話をちょっとしてもらわんとね」と振りました。
これに対し、「やっぱりその刷り込みが一番怖いんですよ。宮根さんが言われている言葉が」と正面から答えず、論点をずらしました。
脱原発後のエネルギー政策は、山本にとって弱点となっています。もちろん、これはれいわ新選組に限らず、「原発ゼロ」を訴えている立憲民主党も同じです。原発をゼロにしたうえでの現実的なエネルギー政策は、なかなか見当たりません。