歩く風評被害 山本太郎の「放射脳」|坂井広志

歩く風評被害 山本太郎の「放射脳」|坂井広志

「水に流す」という言葉があるが、「水に流せない」こともある。2011年、「高濃度汚染地域・東京から山本太郎です。超高濃度汚染地域、福島・東北にお住まいの皆さん、こんにちは」「避難してください。未来はないです。子供たちを無理心中に引き込まないでください。大人として、子供のためにも疎開してください」と発言した山本太郎を再び、国会議員にしてもいいのか。


給食を食べたら被曝する

「左派ポピュリスト」と呼ばれているれいわ新選組代表の山本太郎の主張ははたしてどの程度正しいのか、あるいは理に適っているのかどうか。「山本太郎ファクトチェック」ではそのことを問い、彼の経済政策や思い描く理想的な社会は「ファンタジー」にしか見えないという結論で締めくくりました。

今回はその第2弾ということで、山本太郎が政治の道を志すきっかけとなった原発問題について「ファクトチェック」したいと思います。
 
山本が平成23年5月に「YouTube」(ユーチューブ)で動画配信したこのメッセージを覚えている方は、どれくらいいらっしゃいますか。

山本は平成23年3月11日の東京電力福島第一原発事故の際、散々風評をまき散らしましたが、その原形はここにあると言ってよいでしょう。

冒頭から、「高濃度汚染地域・東京から山本太郎です。超高濃度汚染地域、福島・東北にお住まいの皆さん、こんにちは」と、福島県民や東北の人たちの気持ちを逆撫でするような言い方をしています。これを聞いただけで不快になった方は多いでしょう。

そのうえでこう呼びかけています。

「避難してください。世界中に例を見ない最悪な事故です。進行中です。毎日、とんでもない濃度の汚染物質、空から降ってきています。海に垂れ流してます。この状況で生活するのはあり得ないです。がんになっているのを待っているだけです。避難してください。未来はないです。子供たちを無理心中に引き込まないでください。大人として、子供のためにも疎開してください」

実に無責任かつデリカシーのかけらもない発言です。「無理心中」という刺激的な言葉を使うあたりも、その無神経さは許し難いです。

自身のブログ「山本太郎の小中高生に読んでもらいたいコト」でも言いたい放題でした。平成25年5月8日付にはこんな記述があります。

「君が食べた朝ご飯、安全だった? 君が学校でほぼ毎日食べる給食、安全かな? 残念ながら、かなり食べ物に対して気を使わなければあなたの身体は被曝し続ける」

「東電原発からの『距離』で安心しちゃいけない。毎日の生活に大変で現状に気づけていない大人たちに教えてあげて。まずは、あなたの学校の給食や食堂にフォーカスしてみない? 君からの問題提起で、周りの友だち、大人たち、先生を本気にさせて。自分や友だち、大切に想うひとを守る為に。事故から二年。急がなきゃ。これには皆の命がかかってる。皆で病気になってどうする? 長生きしよ! そして長く人生楽しもうぜ!」

給食を食べたら被曝すると小中高生に囁くという、それは実に悪質なものでした。

歩く風評被害と呼ばれて

彼は、自らの過去の発言や発信について反省しているのでしょうか。

これは、原発ゼロの社会を目指している市民団体「たんぽぽ舎」が2019年1月に東京都内で開催した講演会での発言です。

「マスコミには関連企業からお金が落ちている。みなさんの怒りが捻じ曲げられてしまう。私なんか『歩く風評被害』という名前になってますから。『狼と踊る男』みたいな。『ダンス・ウィズ・ウルブズ』みたいな名前をいただいて、光栄なんですけれども……」

マスコミは自分たちの怒りをちゃんと伝えてくれないばかりか、自分のことを「歩く風評被害」と批判する、と言いたかったのでしょう。「狼」が風評で、「踊る男」が自分ということなのでしょうか。いずれにしても、自虐ギャグのつもりなんでしょう。

『ダンス・ウィズ・ウルブズ』とは、ケビン・コスナーが監督、主演などを務め、日本で平成2年に公開された米国映画です。

19世紀の米国を舞台に、インディアンと交流を深め、「狼と踊る男」と呼ばれるようになる南北戦争の英雄の姿を描いた作品。山本太郎は「狼と踊る男」というよりは「狼少年」ならぬ「狼中年」といったほうがお似合いのような気はしますが……。

この発言で会場には笑いが起きましたが、笑いを誘っている場合ではありません。思想的に、政策的に近い団体が開催した講演会とあって、会場を盛り上げるためのリップサービスだったのかもしれませんが、反省は微塵も感じられません。

2019年11月の福島県郡山市での街頭演説では、「福島県内にも『山本太郎、死ねばいいのに』と思われている方が大勢いることを知っています。『歩く風評被害』と呼ばれたこともあります。『あいつはデマをまき散らして』ということも言われました」と語っています。

「歩く風評被害」というキャッチフレーズがよほどお気に入りなのでしょうか。使用頻度は高いです。

自身をこれほど客観視できるわけですし、2021年3月で事故から丸10年を迎えるのですから、そろそろ謝罪してもいいのではないでしょうか、と言いたいところです。もっとも、「謝罪」そのものはしています。
 
では、何に対して謝罪しているのでしょうか。郡山市内でも語っていますが、2019年7月の福島市内での街頭演説ではより詳細に謝罪しているので、そちらの演説を見ていきましょう。事故当時のことをこう振り返っています。

「私は『逃げてくれ』と言った。『逃げてくれ』と言っても、どこに逃げるんだよって話です。新しい環境用意してくれるの? 簡単に『逃げろ』と言うけど、家族が移動する交通費しかないんだってことを、福島のある家族の方から言われた。その時に、自分がぶん殴られたような思いになった。原発問題以外に、地盤沈下した人々の生活もあることに初めて気づいた。とんでもない、世間知らずだったんですよね」

そして、こう続けます。

「そんな大きな声出してもこの現実を変えられないということに関して、責任も持たずに発言してきたことに関して深く深くおわび申し上げたいです」

そうです。無責任に「逃げろ」と呼びかけたことをわびているのです。これは、風評被害をまき散らしたことへの謝罪ではありません。

街頭演説は原発問題に続けて、消費税や社会保障、貧困などの問題に突入していくわけですが、「地盤沈下した人々の生活」という言葉を持ち出して話を転換していくその話術は、なかなか巧みです。
「逃げろ発言」への反省は、本題に入る前の所詮イントロですか、と突っ込みたくなります。

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