「日本の学校は軍隊にならって作られた」
そして現在。日の丸・君が代への嫌悪を抱きながら、親方日の丸の霞が関官僚として「面従腹背」して生きてきた前川氏の習い性は、そう簡単には抜けないのではないかと推察する。
本書では、あえて言えば、教育の多様性を言いながらも「不登校の増加は義務教育の失敗」としているところや、賭けマージャンがばれて退職した黒川弘務元東京高検検事長に対する評価(官邸に弱みを握られていたのでは、賭け麻雀は自らタレ込んだ自爆だったのではないかという指摘)などは、気にはなった。
だが、それ以外は「前川氏ならそう言うだろうな」という予想の範疇内にびったり収まっている。つまり「お客さん向け」に持論を調整して書いているのではないかという疑いだ。
憲法を重んじ、上皇陛下の「護憲精神」に感銘を受け、日の丸君が代の強制を嫌悪する。学校制度を所管する省の次官にまでなりながら、「日本の学校は軍隊にならって作られた」「詰襟は軍服」「ランドセルは背嚢」「体育は軍事訓練そのもの」「入場行進は軍隊の分列行進」「運動会は野戦演習」などと吐き捨てるように書いている前川氏の精神状態が結構、心配になる。
「こんなところにいたくないと思いながら、しかし面従腹背で出世ラインを上っていく」ことによる精神衛生への影響を心配する一方で、前川氏が今書いていることも、「相手が求めるものを(自らの本当の思いを度外視しても)描いて見せる」ことができるだけなのではないか、という気がするのだ。
森功本にも登場しているが……
さて、安倍・菅政権については同時期に森功『墜落 「官邸一強支配」はなぜ崩れたのか 』(文藝春秋)も刊行されており、『官邸官僚』(同)を出した森氏らしく、こちらも政治家と官僚の関係性にかなり踏み込んでいる。また、前川氏の証言も会話調で収録されているが、併せて読むと前川氏の自著のトーンとの違いに気づかされる。
まさかこれも森氏への「面従腹背」だろうか。
ご興味ある向きには、ぜひ併読をお勧めする。それほど前川氏に興味はないかもしれないが……。