保健所縛りによる「順番待ち」
8月13日夜、菅義偉首相は、新型コロナ患者への酸素投与が必要になった場合に利用できる「酸素ステーション」や、「抗体カクテル療法」として新たに承認された治療薬の投与を集中的におこなえる拠点を整備するとの考えを示した。
3日後の8月16日、菅首相、小池百合子都知事、田村憲久厚労相は早速、抗体カクテル療法が行われている都内の新型コロナウイルス患者の療養施設を視察した。「私たちは、コロナ対策をやっていますよ」というアピールである。
私は「もっと大事なことがあるでしょう」と二つのニュースに深い溜息が出た。当欄でも指摘してきた通り、日本は新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正により、新型コロナを「2類感染症以上」の扱いとしている。
コレラより重い扱いのために、陽性者は保健所に届け出をせねばならず、保健所が患者の管理や入院調整をするのである。いわゆる“保健所縛り”だ。
しかし、このために日本では自宅療養ならぬ「自宅放置」という現象が起こった。例えば、東京では、陽性で自宅療養になっても、初期治療に有効とされるイベルメクチンをはじめとする薬も処方されることはない。「治療をしてもらえない」のだ。
つまり、「自己免疫力で戦いなさい」ということである。
8月3日、荒川区に住む糖尿病の基礎疾患がある50代の男性が新型コロナに感染し、自宅待機中に死亡しているのが発見された。
7月21日に発熱し、24日に病院で感染が判明したこの男性は糖尿病疾患があったが、入院できないまま自宅待機が続いていた。職場の同僚には、「保健所が“順番待ち”になった。その後、保健所と連絡が取れない」と嘆いていた。
こうして自宅待機が続いたまま、男性は感染判明から十日後、自宅で遺体となって発見されたのである。
2類相当から5類に下げればいいだけ
いうまでもないが、感染症は「発見、即治療」が大原則である。初期治療がなにより重要であることは専門家でなくても、誰でも知っている。
インフルエンザでも、病院で感染がわかると、すぐにタミフルをはじめ、さまざまな薬を処方してもらう。「これをんで2、3日は、栄養を摂ってゆっくり休んで下さい」と言われて会社や学校を休み、それでほとんどが治るのである。
だが、前述の通り、2類相当のコロナは、感染がわかった段階で保健所の管轄に入り、入院調整その他、すべてが保健所の扱いとなる。だが、保健所は医療機関でないため、薬の処方もしてもらえず、そのまま自宅待機となってしまうのだ。
感染者が増えたら、とても対応できるものではない。先の荒川区の50代男性のようにその間に死亡する人が出るのは当然だろう。
私は、自宅隔離中に亡くなる人が急増した今年の1月・2月から、くり返しこの問題を指摘してきた。しかし、国や都が動くことはなかった。相変わらず2類相当を続け、「自己免疫力でコロナと戦いなさい」との方針を続けたのだ。私は、遺族は国や都を相手取って訴訟を提起すべきだ、とまで主張した。
インフルエンザと同じように治療するには、コロナを2類相当から5類に下げればいいだけのことである。そして、コロナ治療は「公費負担」ということを決めればいい。だが、こんな簡単なことが菅政権にはできない。やっていることは「人流抑制」のために緊急事態宣言をくり返すだけだ。