【わが政権構想】新型コロナ対策、私ならこうする|高市早苗

【わが政権構想】新型コロナ対策、私ならこうする|高市早苗

「菅降ろし」の意図はまったくない。現状の閉塞感を打破して、日本のあるべき姿、真に必要な政策を活発に議論するために総裁選出馬を決めた――。女性初の総理大臣を目指す高市早苗議員が、新型コロナ対策のすべてを語った!


創薬力の強化と日本の弱点

コロナ禍で困っていることは、ワクチンと治療薬について、国内生産による安定的な供給体制が確立されていないことです。
 
ワクチンについては、国内でも大学と企業が連携してワクチン開発が行われていましたが、接種開始時期には間に合わず、外国産ワクチンに頼らざるを得なかったことから、果たして十分な供給量を確保できるのかどうかという不安が拡がりました。
 
治療薬についても、軽症、中等症Ⅰ、中等症Ⅱ、重症と、病状によって対応する薬がありますが、国内生産していない薬に頼らざるを得ず、早期に全ての患者に処方できるだけの量が確保されているとは考えられない状況です。
 
今夏は、大手コンサルティング企業や、海外で活躍中のメディカル企業の幹部から、日本の製薬企業のグローバルな立ち位置について、教えて頂きました。
 
先ず、日本の製薬企業は、企業全体、創薬においても、研究開発の生産性の高い数社を除いては、グローバル大手の平均以下のパフォーマンスだということでした。上位25社には、売上規模で4社、時価総額で3社しか入っておらず、メガファーマのグループに近いのは武田薬品だけです。
 
コロナ・ワクチンのファイザーなど「メガファーマ」の次に来るのが、フォーカスしたR&D(研究開発)を進めている「スペシャリティファーマ」です。特定分野での成功率は高く、例えば、ノボノルディスクは糖尿病や成長ホルモンなどの薬に、イーライリリーは癌の薬に特化しています。
  
日本の製薬企業では、中外製薬と第一三共が分野を特化しており、期待が高いそうです。
特に中外製薬は、ロシュとの提携を活かした研究開発力と販売力が高く、新薬の開発力が目立っています。最近では、新型コロナウイルス感染症の軽症時の治療薬として期待を集めている抗体カクテルの日本における独占販売権も獲得しました。

ロシュは、乳癌など癌治療薬で注目されている企業ですが、タミフルも、作ったのはギリアドですが、ロシュが買い取って販売しています。第一三共は、抗癌剤が米国で認可されて、株価が上昇しました。20年来の努力が最近になって花開いています。
  
世界の売上トップ20製品のうち、日本企業は、1995年に第一三共の高脂血症治療薬と田辺の狭心症治療薬がランクインしましたが、2020年は小野薬品のオプジーボのみでした。2020年の売上トップ20製品は、特化型・難病対策の治療薬(癌、免疫疾患など)が多く、日本企業は「高分子薬」「バイオ薬品」への切り替えが遅れたと分析されています。
 
多くの日本企業の「創薬パフォーマンスの低さ」の要因については冷静に分析しながら、今後は「創薬力の強化」に向けた取組を本気で始めなければならないと考えます。
  
第1に、「メガファーマ」は対象とする疾患領域が幅広く、「スペシャリティファーマ」は対象領域を絞っており、日本の製薬企業はどっちつかずになっています。
  
第2に、創薬プロジェクトの可否を早期に見極め、適切にリソースを最適化する柔軟性が不足していることです。グローバルファーマは、研究段階で考えた薬の能力を動物ではなく人で臨床治験して、絞り込みを早期に行うということですが、これは、日本では賛否の大きく分かれるところで、実に困難な課題です。
 
第3に、ベンチャーのエコシステムが弱いことです。欧米と比べますと、資金面、機能面ともにインキュベーション(事業の創出・創業支援)の仕組みが不十分です。

米国のバイオクラスターであるサンディエゴでは、循環する資金と人材に加えて、弁護士、会計士など専門職を含めた研究開発段階のエコシステムが形成されているということです。この点は、産学金官で連携して、改善策を講じられると思います。
 
第4に、臨床開発環境の未整備です。日本では、総合病院が多いですから、一つ一つの領域の患者数が少なく、患者組み入れコストが高いのです。患者データも医療機関ごとに分散していますから、対象患者を見付けにくいということです。

例えば、癌特化病院は日本全国で350から400もあり、薄く広がり、研究や教育ができる医師が散らばっています。海外のCenter of Excellenceが特定領域に特化しているのとは対照的だと言われます。

米国との研究資金の差

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第5に、トランスレーショナルリサーチ(基礎研究から臨床現場への橋渡し研究)が脆弱です。つまり、理論から臨床への繫ぎが弱いということです。臨床研究の論文数が少なく、phDの人数も少なく、学位取得後の企業への就職比率は、米国に比べると圧倒的に低くなっています。

産学連携の人材交流も限定的だとされます。
その理由として、「『臨床研究法』によって、医師主導の治験がやりにくくなったからだ」という指摘があります。同法の制定は、ノバルティス社員の臨床データ改竄がきっかけでした。製薬企業から資金提供を受けた臨床研究への縛りが厳しくなり、共同研究が困難になったそうです。

これも、人命に関わることですから、データ改竄の再発がないように留意しながら、改善策を検討したいと思います。

第6に、研究資金の差です。
NIH(米国の国立衛生研究所)とAMED(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)の研究資金力に大きな差があることに加え、基礎⇒応用⇒ 臨床と繫いでいく公的資金が少ないのです。

医療分野の研究助成金の規模は、米国が日本の22倍になっており、政府の研究開発予算における医療分野の割合も、米国が日本の6倍です。

医療分野の予算の流れを見ますと、米国では、NIHから直接、大学や研究所に渡りますが、日本では、文部科学省、厚生労働省、経済産業省からAMEDとインハウス研究機関に渡り、その後、臨床研究中核病院や大学や国立研究所などに渡っています。

ここは、研究資金の配分方法と規模も含めて検討した上で、国が「危機管理投資」及び「成長投資」として大胆に支援するべき点だと考えます。

第7に、薬価制度の抜本的改革で、製薬企業の稼ぐ力が減少したことです。つまり、革新的な薬剤に対する見返りが少ないということです。ここは、患者負担も含めて政治の現場での議論が激しくなる点です。
 
以上の問題意識を持った上で、私は、米国の商務省が所管する『特許規則連邦規則法典』第37巻第404条6項についても、研究してみたいと考えています。

NIHの技術シーズを、同法に基づき、実用化の独占的ライセンスを中小企業に優先的に付与するものです。バイオベンチャーは技術シーズがなくても起業できる代わりに、迅速な開発と商業化を要求されます。
  
自民党社会保障制度調査会に設置された「創薬力の強化育成に関するプロジェクトチーム」でも、今年5月に提言が取り纏められています。

先に述べた私の問題意識と概ね同様の方向性ですが、党提言のなかでは特に「緊急時に新薬・ワクチンを迅速に実用化できる薬事承認制度の確立」が、多くの国民の皆様の願いに沿っているのではないかと思います。

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