中国ではここ数年、大量の個人情報流出事件が頻発している。中国のセキュリティ会社、補天漏洞響応プラットフォームが2016年に発表した報告書では、60億人もの個人情報が漏洩していると推計している。
2018年8月には、漢庭酒店(酒店=ホテル)や全季酒店を傘下に持つ大手ホテルチェーン華住酒店集団の個人情報五億件が漏洩し、販売されるという事件が起こっている。
こうした個人情報の漏洩事件の一つとして、中国共産党員の名簿も漏洩したと思われる。漏洩した名簿は2016年4月16日現在のもので、活動家(Activists)がMySQLというデータベースから抽出したものとされているが、真偽は定かではない。インターネット経由ではデータベースにアクセスできないことから、物理的にデータベースに直接アクセスできた者がデータを抽出したと推測されている。
中国政府は日経新聞の取材に対して、「一連の報道は中国に対する言われなき誹謗中傷とぬれ衣であり、辻つまが合わないうえ、根拠を欠いている。その本質は中国への敵対感情をあおり立て、イデオロギーの対立を作り出すことにある」とのコメントを出している。
だが、データの入手に成功したオーストラリアに拠点を構えるサイバーセキュリティ会社「インターネット2・0」では、オーストラリア政府ならびにイギリスのタブロイド紙オールオンサンデーなどと協力して、名簿にある複数の人物の身元の実在を確認したとしている。そのなかには上海の米国領事館で働く漢民族の大卒女性3名が、国営の人材派遣会社上海市対外服務有限公司からの派遣であることも確認されている。
正確には195万7239人
今回、筆者が所属する情報安全保障研究所がこのデータを独自に入手した。それは、香港人や台湾人、法輪功の関係者などがよく利用するチャットルームに掲載されたもので、スプレッドシート(Excel形式)に加工されており、ファイルサイズは154・3メガバイトと非常に重い。プロパティ(ファイル作成情報)には何の記載もないものである。
データは全て中国語で書かれており、上海を中心にした約8万の中国共産党支部とそれらに所属する党員の名前、性別、民族、出身地、所属する中国共産党の支部、住所、党員番号、最終学歴と電話番号、そして身分証番号が記載されている。
これら極めて詳細なデータからみて、日経新聞が報じた「200万人弱のデータ」と同一のものであると見てまず間違いない。その報道では200万人弱とされているが、正確には195万7239人である。
なお、インターネット2・0が名簿を入手したことを公表したのが12月20日だが、Twitter上でその2日前の12月18日に Gus Skarlis というソフトウェア開発会社の社長が、唐突に「I put up the CCP list on list.gusskarlis.com so you can search people.」(中国共産党員のリストをlist.gusskarlis.com にあげたから検索できるよ)と呟いていることが判明した(Twitter はその後削除)。
公開されたデータは英文でデータベース化されており、名前や民族、最終学歴などで検索できるようになっている。情報安全保障研究所が独自に入手したデータと身分証番号で照会してみたところ情報が完全に一致、同じデータを元に作られたものと判断できる。
中国共産党はこれまで党員データの詳細を公表したことはないが、党員は2020年時点でおよそ9200万人と推計されている。今回、漏洩した上海を中心とした中国共産党員の名簿は全党員の2・1%に過ぎないが、このデータの分析を試みたところ、衝撃的な事実が浮かびあがってきた。
98・9%が漢民族
そもそも中国共産党員とはどんな存在であるかが、一般にはあまり知られていない。
まず、党員になるためには、「満18歳で、党費を期限どおり納めること」が大前提とされる。これは「中国共産党規約第一章第一条 党員」に定められている。党費を期限どおり納めることを第一の党員資格に定めることが中国共産党らしい。
中国共産党の党員は、「永遠に勤労人民の普通の一員」であるとし、その特権階級であることを否定したうえで、正式党員2名の推薦が必要で、支部大会での可決と上級の党組織の承認を受けたあとに1年間の予備期間の査察と教育を受けて、初めて正式な党員となることができると定めている。この推薦制度は、中国共産党が漢民族で占められる大きな要因となっている。
中国は漢民族が統治している国であり、推薦する中国共産党員もほとんどが漢民族であることから、中国共産党員は圧倒的に漢民族が多くなる。事実、今回の漏洩データの98・9%は漢民族であり、まれに朝鮮族、蒙古族、士家族が散見される程度だった。