【読書亡羊】習近平に読ませてはいけない! ルトワック『ラストエンペラー習近平』

【読書亡羊】習近平に読ませてはいけない! ルトワック『ラストエンペラー習近平』

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする週末、もとい、今回は連休書評!


習近平は「被虐待児」

中国共産党が「皇帝化」「毛沢東化」ともいうべき習近平に権力を集中させたことで、習近平自身の弱点が中国そのものの弱点にもなっていることも本書は指摘している。

さらには、「なぜ、毛沢東に失脚させられた父を持ち、自身も文革の嵐に翻弄された習近平が、毛沢東路線を継承するのか」という疑問にも、ルトワックは「被虐待児」という観点から、実に大胆な分析を施している。

詳しくは本書でお確かめ頂きたいが、安全保障の世界だけに閉じこもらず、外交、経済、福祉、心理学的な領域まで見渡しながら論理を展開するルトワックの分析は鋭い。『ルトワックの日本改造論』(飛鳥新社)をはじめとするこれまでの著作でも光っていたが、今回ももちろん健在だ。

日本だけではないのかもしれないが、特に本邦の言論界では「安全保障を語るものは福祉を語らず」「経済を語るものは軍事を語らず」的な棲み分けが存在する。

そうした分断の中にあっては見えてこない視点こそ、ルトワックの著作から得られる最大の恩恵であるともいえるだろう。

ルトワックの日本改造論

AI兵器への軍側の抵抗

第4章、第5章では、「軍事テクノロジーの逆説」を扱う。

中国はアメリカに続いてAI兵器、自律型兵器の導入=知能化を進めている。これに関しては、中国の現役軍人が書いた『中国軍人が観る「人に優しい」新たな戦争 知能化戦争』(五月書房新社)や、同書監訳者である安田淳・慶応大学教授へのインタビュー(下記リンク)などに詳しいが、ルトワックは「AI兵器の逆説」にも言及。

また、「新しい兵器が導入されると、軍の組織改編も生じる。その際、既存の兵器の担当部局が新兵器の導入を拒む」という現象を紹介しているが、一方、『知能化戦争』からは「軍人が率先して『知能化』に言及し、組織改革もやむなしとしている」ことがうかがえるだけに、こうした「軍側の抵抗」が中国にも存在するのか、気になるところだ。

知的興奮に満ちた本書。仮に中国が『チャイナ4.0』を読み、自国の戦略に取り入れていたなら、中国はより強く、恐ろしい存在になっていただろう。本書も、習近平に読ませてはいけない一冊だ。

関連する投稿


【読書亡羊】「麻辣強国」VS「マサラ強国」…米中印G3時代への準備はいいか  中川コージ『インドビジネスの表と裏』(ウェッジ)|梶原麻衣子

【読書亡羊】「麻辣強国」VS「マサラ強国」…米中印G3時代への準備はいいか 中川コージ『インドビジネスの表と裏』(ウェッジ)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】熊はこうして住宅地にやってくる!  佐々木洋『新・都市動物たちの事件簿』(時事通信社)|梶原麻衣子

【読書亡羊】熊はこうして住宅地にやってくる! 佐々木洋『新・都市動物たちの事件簿』(時事通信社)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】韓国社会「連帯」と「分断」の背景に横たわる徴兵制の現実とは  金柄徹『韓国の若者と徴兵制』(慶應義塾大学出版会)|梶原麻衣子

【読書亡羊】韓国社会「連帯」と「分断」の背景に横たわる徴兵制の現実とは 金柄徹『韓国の若者と徴兵制』(慶應義塾大学出版会)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】ウイグルに潜入したら見えてきた「中国の本当の姿」とは  西谷格『一九八四+四〇――ウイグル潜行』(小学館)|梶原麻衣子

【読書亡羊】ウイグルに潜入したら見えてきた「中国の本当の姿」とは 西谷格『一九八四+四〇――ウイグル潜行』(小学館)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【読書亡羊】ウクライナの奮闘が台湾を救う理由とは  謝長廷『台湾「駐日大使」秘話』(産経新聞出版)|梶原麻衣子

【読書亡羊】ウクライナの奮闘が台湾を救う理由とは 謝長廷『台湾「駐日大使」秘話』(産経新聞出版)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


最新の投稿


高市総理、理不尽な攻撃に負けないで|藤原かずえ【2026年1月号】

高市総理、理不尽な攻撃に負けないで|藤原かずえ【2026年1月号】

月刊Hanada2026年1月号に掲載の『高市総理、理不尽な攻撃に負けないで|藤原かずえ【2026年1月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


犯罪的暴言 薛剣大阪総領事に厳罰を!|遠藤誉【2026年1月号】

犯罪的暴言 薛剣大阪総領事に厳罰を!|遠藤誉【2026年1月号】

月刊Hanada2026年1月号に掲載の『犯罪的暴言 薛剣大阪総領事に厳罰を!|遠藤誉【2026年1月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


【読書亡羊】「麻辣強国」VS「マサラ強国」…米中印G3時代への準備はいいか  中川コージ『インドビジネスの表と裏』(ウェッジ)|梶原麻衣子

【読書亡羊】「麻辣強国」VS「マサラ強国」…米中印G3時代への準備はいいか 中川コージ『インドビジネスの表と裏』(ウェッジ)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


アベノミクスからサナエノミクスへ|馬渕磨理子【2026年1月号】

アベノミクスからサナエノミクスへ|馬渕磨理子【2026年1月号】

月刊Hanada2026年1月号に掲載の『アベノミクスからサナエノミクスへ|馬渕磨理子【2026年1月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


【今週のサンモニ】ノーベル平和賞報道でも本末転倒|藤原かずえ

【今週のサンモニ】ノーベル平和賞報道でも本末転倒|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。