私は耳を疑った。
河野談話をそのまま読み上げ、そのまま継承するというのであれば、慰安婦の募集にあたっては甘言や弾圧が用いられ、さらに官憲等が直接加担したことを認めることになる。それではやはり、慰安婦が強制連行され、性奴隷とされたのは事実と解釈されてしまうのであって、だから河野談話が延々と強制連行性奴隷説の根拠にされているのだ。
加藤官房長官は官僚が用意したものを読み上げているだけで、自分が何を言っているのか理解していないのではないか。
ちなみに、「官憲等が直接加担した」という記述は日本軍が直接強制連行したと読み取れるが、西岡力麗澤大学客員教授が当時、これが具体的に何を指すか日本政府に確認したところ、インドネシアで発生したスマラン事件のことを指す、との回答があったそうである。
スマラン事件とは、現地の日本軍兵士の一部が軍規に違反してオランダ人女性に強制売春をさせた事件で、これは当時においても犯罪であり、主犯者は処刑されている。それをこのように談話に記述してしまうと、あたかもそのような犯罪行為が普遍的に行われていたと解釈されてしまう。
加藤官房長官は次のように続ける。
なお、官房長官談話のなかにいわゆる強制連行という言葉は用いられておりませんが、当時の会見において、強制連行についても議論がなされたところであります。これまで日本政府が発見した資料のなかに、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述は見つかっておらず、これらの点については、これまでも国会の場や質問主意書に対する答弁書においても明らかにしております。
加藤官房長官は、ご自身の回答の前半と後半に甚だしい矛盾があることに気付かないのだろうか。
強制連行はなかったというのなら、強制性を明示する河野談話は破棄しなければならないのは自明の理だ。発表から28年も経っているのだから、わざわざ議論せずとも、賞味期限切れでアーカイブに移せばいいだけのこと。つまり、新しい政府見解を出して上書きすればよいだけである。
有村議員の質問にあるように、河野談話はもともと当時の政治状況における両国政府による妥協の産物であって、現在の日本政府の見解とは異なる、と堂々と述べればよいのだ。
加藤官房長官は東大卒の元大蔵官僚であり、日本ではエリート中のエリートだ。それが、国際的に全く通用しない矛盾した答弁を平気でしてしまう。だから日本は歴史問題で惨めな敗北を続けるのだ。日本国の宿痾がここにある。
情報戦略アナリスト、令和専攻塾頭、雪風の会(DMMオンラインサロン) 主宰。公益財団法人モラロジー道徳教育財団研究員。1965年、東京都生まれ。中央大学卒業後、シドニー大学大学院、ニューサウスウェールズ大学大学院修士課程修了。22014年4月豪州ストラスフィールド市で中韓反日団体が仕掛ける慰安婦像公有地設置計画に遭遇。シドニーを中心とする在豪邦人の有志と共に反対活動を展開。オーストラリア人現地住民の協力を取りつけ、一致団結のワンチームにて2015年8月阻止に成功。現在は日本を拠点に言論活動中。著書に、国連の欺瞞と朝日の英字新聞など英語宣伝戦の陥穽を追及した『日本よ、もう謝るな!』(飛鳥新社)など。