一市民からのロシア論
ラストは中村逸郎『ロシアを決して信じるな』(新潮新書)。
タイトル通り、時に厳しくロシア社会の問題を指摘するが、時には驚くほどの美文でロシアの景色と人々の心情を綴っている。
「ロシア人とはどういう人たちなのか」を、現地滞在経験から描き出していて、思わず笑ってしまうエピソードもあるが、「核戦争一歩手前だった」という国際政治史に残る驚きのスクープも飛び出す。異色の一冊だ。学者としてロシアを俯瞰しつつも、一市民としてロシアに滞在した筆者ならではのロシア論といえよう。
「朝出かけるときにはあった路線バスの停留所が、夜にはなくなっている」といった、日本では驚くような現象がロシアの日常だ。こうした経験が蓄積すれば、「何も信じられない」「誰も頼れない」といった殺伐とした感覚にもなるというものだろう。
「ハイブリッド戦」そのものからは離れるが、広い意味で「ロシア的な世界の見え方」の一端を掴むことができる。近年、ネットで広まっている「偽プーチン説」に言及している点も見逃せない。
日本政府の近年の北方領土交渉についても苦言が呈されているので、ご興味のある方はぜひ。
……と、ここまで書いたところで、更なるロシア本・小泉悠『現代ロシアの軍事戦略』 (ちくま新書)も発売された。もちろん本書でもハイブリッド戦争を扱っている。
見逃せない1冊に違いなく、近いうちに紹介したいと思う。
ライター・編集者。1980年埼玉県生まれ。月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経てフリー。雑誌、ウェブでインタビュー記事などの取材・執筆のほか、書籍の編集・構成などを手掛ける。