【読書亡羊】やっぱりロシアは「おそロシア」

【読書亡羊】やっぱりロシアは「おそロシア」

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする週末書評。


(欧米の)主要メディアを分析して、皆画一的な報道しかしていないことが分かった。人々はそんなメディアに飽き飽きしているのよ。……なぜ「別の視点」を怖がるのかしら。同じことばかり報道していることに気づかないなんて。狂っているのはどちらかしら。

この女性編集長の言葉には、うっかり頷いてしまいそうになる。

破壊戦 新冷戦時代の秘密工作

ロシアは〈人間の脳内を支配することを目論んでいる〉

二冊目は廣瀬陽子『ハイブリッド戦争―ロシアの新しい国家戦略』(講談社現代新書)

慶応大学教授、つまり学者の手になるもので、緻密な分析や他の学者の研究成果の引用も多く、さらに体系立ててロシアの戦略を知りたい人は必読だ。

大注目なのは、ネットにおけるニセ情報の拡散や世論誘導、影響力工作を「個々の人間の認知領域への介入」と位置付けている点。つまり、狙われているのはわれわれの脳であり、ロシアは〈人間の脳内を支配することを目論んでいる〉ということになる。

一冊目の『破壊戦』に掲載されているロシア・トゥデイ編集長の言葉を思い出してほしい。心理の盲点を巧みに突かれ、うっかり「共感」すれば、そこからロシアの思うように「脳内を支配」されかねないというわけだ。

ロシアの狙いは、一定方向に世論を引っ張ることだけではない。ネット上の情報に自由社会の人々が疑心暗鬼になり、ある論点で社会が二分されればいい。それだけで自由社会は不安定化し、異論が排除されるロシア(や中国)としては格段にやりやすくなるのだ。

例えばポリコレ。自由社会は中露との違いを際立たせるためによりリベラルで人権的であろうとするが、当然、反発する人たちも出てくる。そうした分断を外から少し刺激してやるだけで、勝手に内部分裂してくれる。

どちらか一方がそうした自由社会に愛想をつかし、「中露の方がましだ」「中露がうらやましい」と思うようになれば大成功、となる。

狙われているのは私たちの「脳(認識)」そのものだ。脳に直接、揺さぶりをかけるための情報工作が、私たちが日頃見ているネットの中で大量にばらまかれている。その可能性を常に意識すべきだろう。

ハイブリッド戦争には領域の区別もなければ、有事と平時の区別もないのだ。

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