蒸気タービンは、原発にも火力発電所にも使われる。蒸気タービンの回転軸は直径2~4メートルで、寸法の加工誤差の許容値は0.05ミリだ。長さは6~10メートル、重量は最大150トンあり、この巨大な鋼鉄の回転体に数千本のタービン翼を取り付けて1分間に3600回転する。戦艦の主砲技術から始まった巨大な匠の技の集大成である。この製造設備も発電所の新増設や輸出がなければ廃れてしまう。一度失った技術を取り戻すのは困難だ。
高度成長時代を支えた原子力と火力の発電プラント製造設備が廃棄されると、温室効果ガス排出実質ゼロを目指す2050年までに必要となる原発の新増設やリプレースは、中国や韓国からの輸入に頼らなければならなくなる。一方、中国の石炭火力発電の世界シェアは2020年に53%へ拡大し、複合サイクルではない安価な石炭火力設備が世界中に輸出されている。実利を冷徹に追求する中国に対し、マスコミ受けを狙うような日本の閣僚の発言で国の基幹産業の盛衰が決まる。これで良いのか。(2021.05.24国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)
国基研理事、東京工業大特任教授。1952年、東京都生まれ。東京工業大理工学研究科原子核工学修士課程修了。専門は原子炉工学。東芝に入社し原子力の安全性に関する研究に従事。同社電力・産業システム技術開発センター主幹などを務め、2007年に北海道大大学院教授に就任。同大大学院名誉教授・特任教授を経て現職。