――この本は団塊の世代へのメッセージなんでしょうか。
残間 周りを見てると、男性たちは特にこの2、3年、65を過ぎたあたりから急に元気がなくなってるね。仕事を辞めてから何をやってるかといえば、ずっとゴルフだったり、楽器を習い始めて発表会をやってみたり、妻と温泉巡りをしたり。花を咲かせたいと思いながらなんとなくこのまま埋もれてしまいそうなひとが多いから、もったいないなと思っているのよ。
「そんなこと何年やるの。人生はまだ続くんだよ」っていっても、「いいんだよ」って答えるの。でもやっぱり、しばらくするとやめてるね。その後どうするのかというと、家にいて猫を転がしてるんだって。犬は元気すぎて転がせないし、とうとう転がすものがなくなって、そばにいて反抗しない猫を(笑)。
悪くはないけど、それにしては先が長いよね。家の中で、こだわりのカッコいい作務衣(さむえ)着てさ、猫だけ相手にしてたってどうなるのってなるじゃない。でも友人だし、皮肉いってもしょうがないから、会ったときには「ねえ、まだ何かやれるんじゃない、あなただったらこういうことできるんじゃない」っていうの。わたし、ひとを励ますのが好きなのよ。励ました後で萎えちゃうんだけど。
ひとのことずっと励ましてると元気がなくなっちゃうでしょ。自分で自分を励ますのもおかしいし。ひとりになると、まああのひとたちの気持ちもわかるよなって思う。でもやっぱりね、立ち直りは早くしなくちゃ。
『もう一度 花咲かせよう 「定年後」を楽しく生きるために』残間里江子 著
中公新書ラクレ 本体820円(税別)
撮影 佐藤英明
女性も定年後が課題に
――本書では、70歳を超えた男性たちが、社会的課題を話し合って貢献しようという「世直し結社」を作るエピソードも紹介されていますね。
社会とのつながりという点では、残間さんは11年前に大人のための会員制コミュニティ「クラブ・ウィルビー」を創設して、様々なプログラムやイベントを提供されています。
残間 「ウィルビー」の会員は全国に1万3千人、平均年齢は53くらいかな。男女はだいたい半々くらい。
始めた頃の入会者は団塊の世代が多かったけど、そのひとたちはもう70歳前後でしょう。いまでは男性も女性も、入会してくるのは50代後半が多くて、さてこれからの60代をどう過ごせばいいんだろうと不安に思ったときに、同世代や人生の先輩たちのネットワークとして目にとまるみたいですね。
いや、やっぱり50代後半の女性が多いかも。わたし案外、今いちばんしんどいのは50代の女性じゃないかと思ってるの。
この本の副題は「『定年後』を楽しく生きるために」で、出版社がつけたんだけど、わたしは最初「定年後」といったら男性をターゲットにしてアピールしてるみたいで嫌だなと思ってたんです。でもあにはからんや、実際には女性の定年後もいま、けっこう大きな課題になってるのよ。
企業や組織で働いている50代の女性って驚くほどたくさんいて、彼女たちはそろそろ定年が視野に入っている。65歳まで働けるというけど、そこまで居られるかどうか、というのね。
男女雇用機会均等法の世代で男並みにバリバリ働いてきて、そして今は女性活躍社会といわれるから会社も中間管理職以上に女性を置きたがる。それなのに役員のポストは、圧倒的に同期の男たちのものになっている。だから居にくいというの。
それにそういう女性たちは独身か、離婚してひとりというひとが多い。小さなマンションくらいは手に入れて、ある意味では後顧(こうこ)の憂いなく社会に出てきているから、会社から頼みにされている。どういうことかというと、もっと若い世代で結婚しているひとたちは、女性はもちろん、男性もイクメンだのなんだのって家庭的になってて育児休暇など取るのよね。そうすると、仕事のできる50代女性がその補填(ほてん)人員になってしまってるのよ。
意外だったのは、そんなひとたちの「60を前にして、これからどうしようかと思ってたんです」という声が多かったこと。で、「本を読んでみたら、こうなっちゃいけないということがわかりました」って(笑)。
「クラブ・ウィルビー」に入会してくる50代後半の女性たちは、それとは少し違うんだけど。子どもが巣立っていって、もう一度、自分に立ち返って、そこで家庭とどう向き合うかという問題に直面していたり、夫と死別していたり、病を得ていたり。「ウィルビー」には、ふつうのひとなのにハッとするほど素敵なファッション・センスの70代とか、病気を克服して活動しているひととか様々なひとが集まるから、忌憚なくいろいろ質問したり、話したりしていますね。