バイデン米大統領の就任演説の全文を読んだが、あまりにも「民主主義」の説明と「団結」の必要性が繰り返されているので、正直に言って、いささかうんざりした。この二つのキーワードを強調すればするほど、トランプ前大統領に票を投じた7400万人の神経を逆なでし、非民主主義的行動を挑発し、対立を呼び戻さないだろうか。米国は南北戦争以来の深刻な対立を秘めながら前進しようとしている。
バイデン氏、左派の暴力は不問
演説中の重要な表現の一つは、政治的過激主義に打ち勝つ決意だ。引用すると、次の通りである。
「私たちが立ち向かい、打ち勝たねばならないものに、政治的過激主義の台頭や白人至上主義、国内テロがある。こうした挑戦を克服し、魂を取り戻し、米国の未来を守るには、言葉以上のものが必要だ。それは、民主主義の中でも最も手に入れにくいもの、つまり結束、結束だ」
新大統領の頭には、2週間前の1月6日、ホワイトハウス近くの広場で開かれた集会に参加していたトランプ氏支持者の数千人が連邦議会議事堂に乱入し、5人の死者を出した事件が存在したに違いない。
しかし、昨年春から夏にかけて、人種差別やかつての奴隷制に抗議した暴力が全米でどれだけ発生したか。ボストンでコロンブス像の頭部が切断され、首都ワシントンで南北戦争の南軍将軍像が引き倒された。
バイデン演説が行われた20日には、オレゴン州ポートランドとワシントン州シアトルで左翼のデモがあった。ポートランドでは民主党州本部の窓がたたき破られ、プラカードには「われわれにバイデンは不必要だ。必要なのは報復だ」と書かれていた。シアトルでは米国旗が燃やされ、裁判所庁舎、スターバックス店などの窓が壊された。暴徒の主体はアナーキスト(無政府主義者)もしくは左翼過激組織「アンティファ」のメンバーを名乗っている。
政治的過激主義や白人至上主義は批判されて当然だろう。が、バイデン演説は左翼の暴力を見逃したのか、故意に取り上げなかったのか。いずれにせよ、民主主義の基本原則の一つ、公平さに欠けている。