米新政権の誕生は日本の分水嶺に|田久保忠衛

米新政権の誕生は日本の分水嶺に|田久保忠衛

2021年は日本にとって、かつてブレジンスキー米大統領補佐官が指摘したように「米国の事実上の保護国」の地位を変えようとせず、時代遅れの憲法の穴倉に閉じこもっていることが、いかにも賢明な外交・安保政策の在り方であるかのような雰囲気は吹き飛ぶ年になるだろう。


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今年の国際情勢の十大ニュースを選び出し、それぞれに論評を付け加えるマスメディア各社に倣うのは、あまりにも陳腐だ。一つだけ選択するとすれば、米大統領選挙で民主党のバイデン氏が当選したことだろう。選挙期間中に会った米国人から「お前はトランプ大統領が好きか嫌いか」との質問を例外なく受けたし、リベラル系新聞のトランプ批判も目にしたが、米国民が国際情勢を正確に分析し、米国の新しい指導者を選んだとは考えにくい。

「民主主義首脳会議」は第2国連への布石か

それはともかく、来年早々発足するバイデン政権は、戦後の国際秩序に大きな新しい枠をはめ込もうとしている。バイデン氏がフォーリン・アフェアーズ誌2020年3~4月号で世界の「民主主義首脳会議」(Summit for Democracy)を大統領就任1年以内に開催すると国際的に公約したからだ。何のためか。米国が再び世界で指導性を発揮するためだという。

戦後から冷戦終了まで四十数年間の米国は、自由主義・民主主義の旗を高々と掲げ、歴代の大統領は輝いていた。冷戦が終焉し、一時期は米一極時代が訪れたかに思われたが、それも束の間で、すぐに国家間で国力の盛衰が発生した。戦後に米国が中心になって創設した国連、北大西洋条約機構(NATO)、国際通貨基金(IMF)、世界銀行、世界貿易機関(WTO)、世界保健機関(WHO)など、秩序安定のための機構は役を果たせなくなってきた。

同じような発想だったのだろう。共和党の故マケイン上院議員が2008年の大統領選挙で、国連とは別に国際機関として「民主主義国家連盟」(League of Democracies)の創設を提唱した。マケイン氏も米国の国際的威信の復活と中露両国への強烈な批判を展開していた。戦後の国際機関に加入して、利益には浴しながら、国益に少しでも反すると共同で拒否権を発動する両国に対する絶望的な不快感がマケイン氏にあった。

バイデン氏の民主主義首脳会議は、何を基準に民主主義国と非民主主義国を分けるのか明らかでない。具体的に言えばフィリピン、トルコ、ポーランド、ハンガリーなどはどちらに振り向けるのか。判断を誤ったときに国際紛争を招きかねない。

また、民主主義首脳会議は今後の国際政治上いかなる役を演じるのか。マケイン氏が構想したように、民主主義国家による第2国連の創設をバイデン氏が意図しているとしたら、非民主主義国との対立は顕あらわになり、戦後の国際秩序が大きく変化していくきっかけになろう。

日本が試される新国際秩序

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日本がどのような形で新しい国際秩序に関わっていくのか、現段階では未知の分野が多すぎて判断が難しい。が、かつてブレジンスキー米大統領補佐官が指摘したように「米国の事実上の保護国」の地位を変えようとせず、時代遅れの憲法の穴倉に閉じこもっていることが、いかにも賢明な外交・安保政策の在り方であるかのような雰囲気は吹き飛ぼう。2020年は日本の外交・安保政策の分水嶺になったと評されるかもしれない。(2020.12.28国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)

著者略歴

田久保忠衛

https://hanada-plus.jp/articles/399

国家基本問題研究所副理事長。1933年千葉県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、時事通信社に入社。ハンブルグ特派員、那覇支局長、ワシントン支局長、外信部長などを務める。1992年から杏林大学で教鞭を執る。法学博士。杏林大学名誉教授。専門は国際政治。国家基本問題研究所副理事長。美しい日本の憲法をつくる国民の会共同代表。著書に『戦略家ニクソン』『激流世界を生きて』『憲法改正、最後のチャンスを逃すな!』など多数。

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