実際に、報道被害によってすでに多くの人命が危機にさらされている深刻な状況もある。
小児科医の話によれば、子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)に対するマスメディアの無責任かつ誤った印象操作により、先進国中で日本だけがワクチン接種率を大幅に減らしてしまった。(70%→0.6%) これにより、現在では対象年齢での前癌病変が続出しているという。
https://twitter.com/TOTB1984/status/1295672987958444032/photo/1
https://twitter.com/TOTB1984/status/1273164930653589505
子宮頸がんは20~30代に多く、「マザーキラー」とも呼ばれている。罹患する人が毎年1万人、亡くなる人が毎年3,000人もいる恐ろしい病気である。
「妊娠が判明した喜びの次の瞬間、胎児もろとも子宮を摘出しなければならない」「幼子を残して若い母が急逝する」などという痛ましい事態が繰り返されてきた一方で、他の国ではHPVワクチンによって撲滅が見えてきている。
その多くをワクチンで防ぐことができるはずだった病気にも関わらず、マスコミ報道が無責任な不安を煽った結果、現在も日本でのワクチン接種率は未だ充分に回復していない。
なお、多くの日本人女性とその子どもたちを不幸に陥れたこの「反HPVワクチン」報道は朝日新聞から始まったことがこの論文で明記されている。朝日新聞に、この責任が取れるのだろうか。
https://academic.oup.com/cid/article/63/12/1634/2282815
「報道被害」の構図を終わらせることは出来るのか
このように9年前の東電原発事故やその後のHPVワクチン関連でも多くの報道被害が起こり、そうした報道も悪影響も、いまだに現在進行形で続いている。その間には豊洲市場移転においても同様の構図があったことを覚えている方も多いだろう。
社会はそれらに対し充分な検証や責任追及をせず、事実上「野放し」にしてきた。その結果として、新型コロナウイルス関連でも同じことが繰り返されている今がある。
マスメディアにとって、無責任に不安を煽動しても無視できる程度のペナルティしか負わずに高い視聴率や反響を叩き出せるのであれば、それを止める理由は皆無に等しい。実際に、散々問題視されているテレビ朝日の「モーニングショー」は今、大きな視聴率を稼ぎだしていた。
https://www.excite.co.jp/news/article/Real_Live_200013709/
しかしながら、ここまで人々の行動や世論、政治に対して絶大な影響力を持ち、三権とならぶ「第四の権力」とすら言われるマスメディアはその実、政治のプロでも医学のプロでもない挙句、結果に責任も一切持つことはない「声の大きな素人」に過ぎない。しかも民主主義的な選挙で選ばれたわけでもなく、弾劾を行うことすらできない。
そうした素人が世論を煽り、民主的な選挙で選ばれた政治家や専門家を差し置いて社会の意思決定を事実上担ってしまうことは、それこそ「公正な民主主義にとって危機的な状況である」とすらいえる。
たとえば5月には黒川検事長が新聞記者たちとの「賭け麻雀」スキャンダルを原因として辞職したが、その一方で同席していた新聞記者たちは結局その実名すら公表されなかった。これでは「マスコミは検察よりも強い」とすら言えてしまうし、京都アニメーション火災の被害者実名が遺族の意向を無視してまで公表されたことに比べれば、あまりにも対照的だ。
原発事故に続いての新型コロナウイルス関連で、再び問題がクローズアップされている「報道被害」。今度こそ、その構図を変えていくことはできるのだろうか。
著者略歴
福島県出身・在住のライター。 【現代ビジネス】【SYNODOS (シノドス)】【ダイヤモンドオンライン】【Wedge】などでビジネス誌向けの記事を不定期で執筆しているほか、書籍『福島第一原発廃炉図鑑』(開沼博・編、太田出版)ではコラムの執筆を担当。また、日本酒新酒鑑評会史上初の金賞受賞数7年連続日本一を獲得した福島県の知られざる美酒と美肴のマリアージュを毎月お届けする【fukunomo(ふくのも)】、地域の魅力やグルメ情報を発信する【福島TRIP】などのメディアにて連載中。