社会不安を増大させるメディア
新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るい、日本にも大きな影響が出ている。在宅時間が増え、テレビを見る機会がいつもより増えた人も多いことだろう。しかしこの騒動の中でテレビ番組、特に新型コロナウイルスについて報じるワイドショーがSNSなどを中心に大きな批判を集めはじめている。
一例を挙げよう。フジテレビの情報番組「バイキング」とテレビ朝日の「羽鳥慎一モーニングショー」がそれぞれの5月19日の放送で、『5月17日、日曜日の東京・原宿の竹下通りと表参道の様子』として紹介した映像、および『JR蘇我駅(千葉市)に鉄道ファンが車両撮影のために大勢集まった』などとし、あたかも緊急事態宣言が大勢の人から無視されているかのように報道した。
しかし、これらいずれの番組も、使用した映像が実際には3月のものであったことが視聴者などからの相次ぐ指摘や抗議で判明し、謝罪に追い込まれた。
https://hochi.news/articles/20200520-OHT1T50073.html?utm_source=dlvr.it&utm_medium=twitter
https://news.livedoor.com/article/detail/18287907/
さらに、テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」のコメンテーター玉川徹氏は、医療の専門家でもないにも関わらず医療に関する数々の持論を広く展開。現場の医療関係者などから強く批判されている。
また、同じくテレビ朝日「グッド!モーニング」に出演したヨーロッパ在住の日本人医師は、「編集で取材内容とはかなり異なった報道をされてしまい、放送を見て正直愕然としました」「映像が編集され真逆の意見として見えるように放送されてしまいとても悲しくなりました」「現場の生の声として、物資の手配と医療従事者への金銭面や精神面での補助に関しても強調してコメントさせていただきましたがそちらも全てカットされてしまいました」と自身のSNS上で悲痛に訴えたことが波紋を広げ、テレビ朝日はこの件でも謝罪することになった。
当然ながら、「非専門家である民間のテレビ局が、専門家の声を真逆の内容で広く国民に拡散すること」は、人の命や安全に大きなリスクになる。さらに、本来の考えを真逆の意見に「捏造報道」されてしまった医師は、この報道が原因で多くの批判まで受けてしまっていた。
この件は、多くの国民に健康に関わる深刻な誤解を広めたことと合わせ、もはや「報道被害」と呼ぶにふさわしい人権問題の一例といえる。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200508-01843179-tospoweb-ent
しかしながら、これらの例は氷山の一角に過ぎない。
同様の事例は以前から繰り返されており、特に、ダイヤモンドプリンセス号にはじまった日本での新型コロナウイルスによる社会不安増大に連動して悪化してきた。というよりもむしろ、メディア自身こそが社会不安を増大させてきた感すら否めない。
メディアは「自分達の『物語』ありきの報道姿勢」によって、事実と異なる虚偽すら用いて私たちに不安を与え、人々の意識や行動に大きな影響を与えてきた。平時でも、エビデンスの怪しい「健康法」が取り上げられるたびに、翌日のスーパーで特定商品の棚が空になった様子などは、多くの人が見聞きもしているだろう。
こうした積み重ねが、特に非常時には深刻な害をもたらした。
空になったスーパーの陳列棚を強調して不安を煽っては買い占めを誘発させ、本来不必要な検査を推奨しては行く必要のない人を病院に走らせ、医療機関の負荷と多くの人の感染リスクを増やした。
災害は、必ず本体とそれに伴う社会不安の2本立てでやってくる。歴史を少し学んだだけでも、社会不安が災害本体に全く劣らない深刻な被害を引き起こしてきたことはすぐに理解できる。
そうした中で、災害時に不安を増幅させるばかりの一部マスメディアは、結果として被害の拡大に一役かってしまっている。かつて武器商人が「死の商人」と呼ばれたことを思えば、そうしたメディアはさしずめ「不安の商人」と化してはいるのではないか。
そして残念ながら、当事者から何度も抗議され、そのたびに形ばかりの「謝罪」をしようとも、今後も同様の行為が繰り返されるであろうことは過去の実例から容易に推測できる。
それは、今回と同様に大きな社会不安が日本を襲った9年前、福島で起こった東京電力福島第一原子力発電所事故の報道に関した経験からも明らかだ。