根拠なしに産経を批判
石破氏は2月に、同じ年生まれの自民党の岸田文雄政調会長、石原伸晃元幹事長、中谷元元防衛相と開いた自身の63歳の誕生祝いの会合では、新型コロナウイルスの感染拡大防止に対応する安倍晋三政権を支えることで一致していた。
「首相には、先頭に立って全責任を負うということで臨んでもらいたい。支えていく」
その際には、石破氏は記者団にこう明言していたにもかかわらず、支えるどころか足を引っ張るような発言ばかりしている。安倍政権のウイルス対応に問題があったならば、その時々に直接、あるいは第三者を通じて申し入れるなり、党内で指摘して議論を起こすなりすればいい。
「私はいつも『弓を引くのか』と言われる。意見を言うと政権への反抗とするような党になってはいけない」
石破氏は1月15日のBSテレ東番組収録ではこう述べ、党内に安倍政権への批判的言動を許さない空気があるとの認識を示した。
自身の言葉への風当たりが不服のようだが、戦後最大の国難といえるウイルス禍の最中に、政権与党の元幹部がわざわざ政権の揚げ足取りのような真似をするから反発を受けるのだ。
石破氏は前述の記者会見で、自身に対する批判に関して「『常に言うことが正論で、世の中はそんなものではない』というところもあるかもしれない」と分析していた。
自覚がないようだが、「正論」と自己評価する発言の中身にも矛盾が見える。個人的にそんなことまで言うのかと感じたのが、2018年の自民党総裁選時でのエピソードである。
総裁選間近の8月21日、テレビ朝日番組で、左派ジャーナリストの青木理氏が産経新聞2018年8月20日付朝刊記事「首相『石破封じ』牽制球次々」について「ある種異様な記事だ」と述べると、出演していた石破茂元幹事長がこう同調したのだった。
「いまの指摘の新聞がそうだが、メディアと権力は一定の距離を置いていたはずだ。代弁人ではなかった」
まるで産経が権力の代弁人だと言わんばかりだが、いったい何の根拠があってどの部分がそうだというのか、甚だ疑問だった。
当該記事は、総裁選に関する当事者たちの生々しい発言を複数の記者が取材してまとめたインサイドストーリーである。自民党内の空気と実情を、具体的なエピソードを通して描いたものが、どう「異様」だというのだろうか。
「あれじゃ野党と同じ」
まして石破氏は、総裁選に向けて同年七月に出版した著書『政策至上主義』で、わざわざ「マスコミのせいにしない」という見出しを立ててこう記していた。
「『マスコミが悪い』と言いたくなる気持ちは本当によくわかりますし、マスコミ自身が批判されるべき場合には、きっぱりとした抗議や申し入れも必要だと思います。しかし、私は経験から、それだけでは理解が広がらないとも思っています」
総裁選では、石破氏の安倍首相批判の在り方について、党内からも疑問の声が挙がった。石破氏支持の立場を取る竹下派(平成研究会)の参院側を束ねていた故吉田博美氏さえ、記者会見で石破氏の首相批判についてこう明言した。
「相手への個人的なことでの攻撃は非常に嫌悪感がある」
この頃、竹下派の中堅衆院議員も首を傾げていた。
「石破さんの出馬記者会見をみると、正直引いてしまう。あれじゃ野党と同じだ。同じ党なのに、あんな人格攻撃みたいなことを前面に出してどうするのか」
石破氏は著書で「異論と『足を引っ張る』はまったく違う」と書いているが、周囲に個人攻撃、人格攻撃と受け止められていることをもっと反省すべきではないか。
また、石破氏は総裁候補である以上、首相になったら北朝鮮による拉致問題にも取り組まないといけない(安倍政権の期間中に解決を見なかった場合)が、この国家によるテロであり重大な人権侵害でもある重要事について、冷淡すぎることも気にかかる。
前述の著書でも、北朝鮮情勢が逼迫していた時期だというのに、拉致問題が論じられていない。
「もし石破政権が誕生したら、拉致被害者家族会は反政府に回るだろう」
政府の拉致対策本部幹部の最近のセリフである。石破氏は拉致被害者家族に嫌われているというのである。だが、もう政界でも忘れてしまった人のほうが多そうだが、石破氏は2002年4月から9月頃まで 拉致議連の会長を務めたことがある。
石破氏に会長就任を要請した故中川昭一元財務相が当時、嬉しそうに筆者にこう語っていたのをいまも忘れない。
「(中国や北朝鮮に宥和的なイメージがある)橋本派の石破さんが受けてくれたのは大きいよ。インパクトがある」