山岡 事実と違う表現を使い続け、指摘されても絶対に変えないとなれば、そういう印象を与えると分かっていてあえて書いていると見做すほかはないでしょう。
ケント 少なくとも、「ジャーナリズム」ではありませんね。活動家による機関紙、つまり「赤旗」と一緒です。ジャーナリズムが政治思想を持ってはいけないというわけではありませんが、自分の目的のために事実を捻じ曲げてはいけない。
私は日本のメディアに興味を持つようになって本当に信じられない思いがしましたが、朝日新聞は嘘の記事を書いて30年以上も撤回しなかった。そもそも、朝日の記者たちが吉田清治の話を本気で信じていたとは思えないんですよ。
現在の沖縄タイムスや琉球新報などを見ても、彼らにとっては事実であるかどうかよりも自分の主張が先に立っています。これはジャーナリストではなく、政治活動家。日本のメディアは「言論の自由」を盾に、何でも報じてしまう。しかし、その結果生じた影響については責任を取らなければならない。報じておいてそこから逃げるのは無責任です。〈forced to provide sex〉という表現は、第一に事実ではないという点がありますが、朝日がどうしてもその表現を使うというのであれば、朝日はそれによって生じた責任を取らなければならないはずです。
ケント・ギルバート氏
慰安婦=性奴隷なのか
──「性奴隷」などの表現の問題でいうと、フェミニズムの研究者などを中心に「性を売る仕事に従事させられ、少しでも自由を制限された女性はすべて『性奴隷』」 「だから『慰安婦=性奴隷』という表現はおかしくない」という意見が出てきています。
山岡 たしかに、「白色奴隷」(19世紀のアメリカで、強制的に売春に従事させられるなど性的虐待を受けた女性への奴隷制を指す概念)のように、「本人が望まないのにそうせざるを得なかった」ケースを全て奴隷と見做すという概念はあります。慰安婦となった女性にしても、当時、公娼制度が合法だったという背景のなかで、生活苦から親が娘をブローカーに売ったケースはあった。娘は内心、嫌ではあったけれど親のため、家のためと思って売られていったということもあったでしょう。
しかし、もともと朝日新聞が報じてきた「慰安婦」とは、「挺身隊という名で騙されて強制的に連行されて慰安婦にさせられた」 「軍隊が組織的に女性を連れ去った」というものであり、韓国側は「10代前半の少女まで連行された」 「慰安婦の多くは証拠隠滅のために殺された」とまで主張しているのです。「日本軍の性奴隷」といった場合にこのような誤った情報が付随してくることに対して、我々は「それは違う」と声をあげているわけで、「性奴隷という言葉は売春に従事している女性を語るうえで一般的な表現だ」という主張は議論のすり替えです。
──「性奴隷」という表現を最初に使ったのは朝日ではない、と朝日批判を批判する論調もあります。
ケント 国連に「性奴隷」という表現を持ち込み、慰安婦と結びつけたのは戸塚悦朗弁護士でしょう。朝日系列の英字新聞「ジャパンタイムズ」も、2016年1月18日の自社の記事で「性奴隷(sex slaves)との表現は妥当である」と正式に明記しています。
山岡 仮に、慰安婦に対して「性奴隷」という表現を朝日より先に使ったケースがあったとしても、大々的なキャンペーンを展開したのは誰だったのかという点で言えば、朝日の責任は揺らぎようがない。
言葉の定義を言うなら、挺身隊と慰安婦の混同は朝日が90年代に報じる以前からあったでしょう。しかし、明確に〈主として朝鮮人女性を挺身隊の名で強制連行した〉(92年1月11日付)という記事を発信した朝日が免責されるはずもない。問題は、「起源」以上に「インパクト」なんです。データベースを検索して「『性奴隷』という表現を朝日よりも前に使っていた海外メディアや論文があった」からといって誰も覚えていない、あるいは誰も知らなければ影響があったとは言えない。「性奴隷=慰安婦」という印象を世に知らしめ、定着させた原因となった記事を書いた朝日新聞の責任が軽減されるわけではないでしょう。
ケント 〈sex slave〉でいうなら、本物の「性奴隷」は現在も存在します。日本でダンサーやホステスをするために来日して業者に雇われた外国人女性がパスポートを取り上げられ、渡航費用の借金返済を口実に売春を強要されるケースです。こういった事例は世界各地にあるし、被害に遭っている女性も大勢いる。これこそ「性奴隷」ですよ。