これまで山本の政策を分析してきましたが、左派色が強いのは間違いありません。ただ、左翼とは明らかに感覚が異なる部分があります。それは天皇陛下についてです。
平成25年10月31日、秋の園遊会で、山本は天皇陛下(いまの上皇さま)に直接手紙を渡し、保守派の面々からは「極めて無礼」と批判を受けました。
このことに関連して、山本は『ニューズウィーク日本版』(昨年11月5日号)で、いまの上皇さまについて「お父さんのような感じを抱いています。私が母子家庭で育ち、家に父親がいなかったから、父性的なものを求めているというのはあると思います」と語っています。
この感覚は、明らかに左派系が抱くものとは異なります。山本は記者団に対し、「私は右翼でも左翼でもない。保守とか革新とかいう話ではない。フリースタイルだ。右も左もいいところをもらって、こっちがやらせてもらうわ、くらいの勢いだ」と語ったことがありますが、左右のイデオロギーの枠組みのなかで位置づけられることを嫌います。
左派色が強い立憲民主党の枝野幸男代表がれいわ新選組を敵視するのも、近親憎悪ということのほかに、山本が「フリースタイル」であるがゆえに左派だけでなく、イデオロギーというものに無関心な無党派層も持っていかれる、という危機感があるためです。
そういう意味では、山本が掴みどころのない人物であるのは間違いありません。それだけに、彼の政策にはよくよく注意しなければなりません。脱原発の持論も、決して捨てたわけではありません。れいわ新選組の政策には「『トンデモ法』一括見直し・廃止」があり、「トンデモ法」として「TPP協定、カジノ法、特定秘密保護法、安全保障関連法」などを挙げています。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設にも反対しています。
彼の政策は、左派系団体のそれと重なり合う部分は多いのです。
ファンタジー・ヤマモトタロウ
『ニューズウィーク日本版』のインタビューでは、「私のなかで1丁目1番地から原発・被曝問題が外れたわけではありません」と語りながらも、なぜ経済政策を中心に訴えているのかについて、こうあけすけに語っています。
「人々の関心という点で考えるなら、目の前の生活がやはり大事になります。人に政治の話を聞いてもらおうというときに、原発や被曝だとどうしても入り口が狭くなりますよね。原発問題に関心を持ってもらうためにも、最初は入り口を広げておくんです。扉を最大限に広げておくためには、経済政策が大事ですよ」
昨年、山本は『ニューズウィーク日本版』のほかに、意外な雑誌の表紙を飾りました。もちろん、「まるごと山本太郎 れいわ新選組」と題した『週刊金曜日』臨時増刊号のことではありません。
男性ファッション誌『GQ JAPAN』12月号です。
彼は参院議員時代、「国会の野良犬」と自称していました。たしかにそんなイメージではありますが、その彼が街頭では貧困問題を訴え、GQのなかでは高級なコートやジャケットを身にまとって、モデルのように振る舞っているのです。まるで変幻自在といわんばかりです。同誌のなかで、「まずは自分たちのやっていることが現実的で、ファンタジーではないということを示す必要があります」と語っています。
変幻自在な男の口から出てきた「ファンタジー」という言葉。彼の演説には、中央官庁が公表しているデータが多数出てきます。役所のデータを駆使することで客観性を装い、根拠に基づいた政策立案(EBPM=エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)を地で行っているつもりかもしれませんが、それでも彼が思い描く社会は「ファンタジー」にしか見えません。
(文中敬称略)
(初出:月刊『Hanada』2020年3月号)