私は、小川榮太郎氏の論文も、主張したかったのはこういうことなのだと思う。読者を挑発するような反語的表現はLGBT当事者に向けられたものではなく、イデオロギー化したLGBT概念に対してだ。これは杉田氏にもいえるが、「差別者だ」と糾弾されることを恐れることなく、LGBTブームの欺瞞をつく議論を展開する小川氏に、私は言論人としての気概を感じる。
小川氏への取材で私は尋ねた。
「差別というデリケートな問題について書く時、どうしても身構えて萎縮したり、自主規制の気持ちが働くが……」
小川氏は即座に否定した。
「私は自主規制しない。すべての同調圧力が嫌いだから」
小川氏は、松浦氏と本誌2018年12月号で対談してLGBTへの考察を深め、さらにその後、松浦氏の誘いで新宿2丁目にも出かけた。
「僕には当事者に対する偏見もないから、とても楽しい時間を過ごしました。ただ、LGBTを過度に人権問題化することと同性婚には反対です。これは変わりようがない」
日本に生まれて本当に幸せ
私事で恐縮だが、私は30年ぐらい前から新宿2丁目に通っている。最近はさすがに足が遠のいたが、以前は常連の店がいくつもあった。今回のことを訊きたくて、久しぶりに2丁目に顔を出したが、ゲイのママたちの反応はすこぶる鈍い。
「ああテレビでやってたわね。雑誌? 読んでないわよ。生産性? 興味ないわ」
39年やっていた店をつい最近畳んだばかりの金竹伊彦氏(71歳)に至っては、こういう。
「私はLGBTの運動なんてかかわりたくない。権利を声高に主張するのは大嫌い。こういうことは秘め事でいいのよ。私が弱者? バカいうんじゃないわよ。お店も繁盛して、世界中を旅行して回って楽しかったわよ。私はこの日本国に生まれて幸せでした。差別されたことなんかありません!」
著者略歴
1956年、横浜市生まれ。立教大学社会学部卒。専門誌、編集プロダクション勤務を経て、フリーに。犯罪、ロシアなどをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『スターリン 家族の肖像』(文藝春秋)、『暗殺国家ロシア 消 されたジャーナリストを追う』(新潮社)などがある。2007年に『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』(新潮社)で第6回新潮ドキュメント賞を受賞。