黙殺され続けるLGBT当事者たちの本音|福田ますみ

黙殺され続けるLGBT当事者たちの本音|福田ますみ

雑誌『新潮45』の廃刊が一つのきっかけとなり議論が巻き起こったLGBT問題。メディアでは一部の活動家の声があたかも「LGBT当事者の声」であるかのように取り上げられ、野党議員も政権批判の道具、パフォーマンス材料としてそれに群がった。ところが騒ぎが静まると、まるで「用済み」と言わんばかりにメディアも野党もLGBTについては何ら関心を示さず今日に至る。 『新潮45』廃刊騒動とはいったい何だったのかー―。報じられなかった真の当事者たちの声をベストセラー『でっちあげ』、『モンスターマザー』(ともに新潮社)の著者であるノンフィクション作家の福田ますみ氏が追った。


「問題はその後、しばき隊界隈の呼びかけで行われた杉田氏への抗議行動です。参加者が中指を立てたり、杉田さんの顔写真にナチスの鉤十字を描いたプラカードを掲げたり、ひどく過激で悪質でした。そのうえ彼らは、こうした行為を批判した右寄りのLGBTの人たちを、『奴らはネット右翼のなりすまし』 『ホモウヨ』などと罵った。異常ですよ」  

森氏は、『新潮45』10月号もすぐに買って読んだ。松浦大悟氏やかずと氏、当事者二人の論文は読むべき価値があると思い、ツイッターで勧めたところ、「そんなものは読む価値はない」 「森奈津子はネット右翼の男のなりすましだ」とまでいわれた。 

「もはや集団ヒステリーです」  

森氏は嘆息する。 「“反差別チンピラ”が加わることによって、LGBT運動は露骨な政権叩きに利用されてしまった。活動家が普通のLGBTから嫌われるわけですよ。このままいけば、LGBTは部落問題のようにアンタッチャブルな領域になってしまう。運動体には自浄作用を発揮してほしい」

「この騒動で、LGBTは確実に腫物扱いになってしまった」と森氏や冨田氏は嘆く。声の大きい少数派が大騒ぎした挙句のツケが当事者に回ってしまったのなら、こんなに割に合わないことはない。

親が理解してくれない辛さ

森氏と同様、「現在のLGBT運動は、もはや反政府運動のツールになってしまった」というのはトランスジェンダーの神名龍子氏だ。

「杉田論文を差別とは感じませんでした。いくつか細かい間違いはありますが、全体として間違ったことはいっていない。むしろ、どこで取材したのか不思議に感じたほど、LGBT当事者の声を汲み取っています」  

それは、かずと氏がいみじくも指摘した、「社会的な差別云々よりも、自分たちの親が理解してくれないことのほうがつらい」という部分であり、T(トランスジェンダー)は「性同一性障害」という障害なので、LGBとは分けて考えるべきという主張である。ことに次の文章は、トランスジェンダーの当事者の願いに寄り添っているという。

〈自分の脳が認識している性と、自分の体が一致しないというのは、つらいでしょう。性転換手術にも保険が利くようにしたり、いかに医療行為として充実させていくのか、それは政治家としても考えていいことなのかもしれません〉  

生殖能力を無力化する性転換手術(性別適合手術)に政治家として支援したいといっているのであり、それはつまり、子供ができないという理由でLGBTを切り捨てる、差別する意図がないことの表れでもある、と神名氏はいう。

Getty logo

「杉田議員が問題視しているのはLGBTに寄生する左翼勢力」

関連する投稿


トランスジェンダー予備自衛官の本音|小笠原理恵

トランスジェンダー予備自衛官の本音|小笠原理恵

バイデン大統領は2021年1月25日、トランスジェンダーの米軍入隊を原則禁止したトランプ前大統領の方針を撤廃する大統領令に署名した。米軍では大統領が変わるごとにLGBTの扱いが激変――。だが、自衛隊ではお互いに理解を深めつつ共存している。その一例をご紹介しよう。


【一周忌を終えて】安倍元総理の精神は政治家の鑑|和田政宗

【一周忌を終えて】安倍元総理の精神は政治家の鑑|和田政宗

7月8日、芝・増上寺において安倍晋三元総理の一周忌法要が執り行われた。その後の集会で昭恵夫人のスピーチを聞き、改めて昨年7月8日の衝撃が私の身体にもよみがえり、涙が流れた――。今回は安倍元総理のお人柄とエピソードを皆様にお伝えしたい。


私が稲田朋美議員を批判する理由|島田洋一

私が稲田朋美議員を批判する理由|島田洋一

日本の政治史を見渡しても、稲田朋美氏ほど、保守派の期待をここまで裏切った政治家は他にいないのではないか。


『腹黒い世界の常識』「まえがき」を特別公開!|島田洋一

『腹黒い世界の常識』「まえがき」を特別公開!|島田洋一

「本書は、反日勢力が仕掛ける各種工作の実態を明らかにし、対処法を示すべくまとめた」国際政治学者の島田洋一名誉教授が書きおろした理論武装の書にして、戦略の書の「まえがき」を特別公開。


米大使の「内政干渉」に苦言を呈す|島田洋一

米大使の「内政干渉」に苦言を呈す|島田洋一

国会で先週成立したLGBTなど性的少数者への理解増進法については、エマニュエル駐日米大使が成立を執拗に働き掛けてきた。「内政干渉」とも言える出過ぎた行動であり、これで日米の友好な関係を保てるのか疑わしい。


最新の投稿


「103万円の壁」、自民党は国民民主党を上回る内容を提示すべき|和田政宗

「103万円の壁」、自民党は国民民主党を上回る内容を提示すべき|和田政宗

衆院選で与党が過半数を割り込んだことによって、常任委員長ポストは、衆院選前の「与党15、野党2」から「与党10、野党7」と大きく変化した――。このような厳しい状況のなか、自民党はいま何をすべきなのか。(写真提供/産経新聞社)


【今週のサンモニ】オールドメディアの象徴的存在|藤原かずえ

【今週のサンモニ】オールドメディアの象徴的存在|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【今週のサンモニ】反原発メディアが権力の暴走を後押しする|藤原かずえ

【今週のサンモニ】反原発メディアが権力の暴走を後押しする|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

【読書亡羊】「時代の割を食った世代」の実像とは  近藤絢子『就職氷河期世代』(中公新書)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】臆面もなく反トランプ報道を展開|藤原かずえ

【今週のサンモニ】臆面もなく反トランプ報道を展開|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。