市場はどんどんモノを買わせようとする
しかし、市場はどんどんモノを買わせよう、買わせようとする。市場に操られてほしいモノが増えてしまうと、あなたは自由ではなくなってしまいます。あなたがほしいモノのために、大切な時間が市場によって奪われるからです。
みなさんにとって何が一番大切か、考えてほしいのです。
市場のすべてを悪と言っているわけではありません。もちろん、生活に必要な物資はあります。私が言いたいのは、「行き過ぎはいけない」ということです。
すべてのものにはリミット(限界)があります。私たちはこのことを認識する必要がある。
私たちは文明を築きましたが、その発展の速度が加速度的に速くなっています。本来なら、その速度にリミット、制限をつけなければなりませんが、先述したように、現在は制限する術を持っていません。
たとえば1997年、地球温暖化防止のために京都議定書が結ばれましたが、ほとんど効果はありませんでした。また、海洋汚染もどんどん深刻化しているにもかかわらず、私たちはそれを食い止めることができていない。
何と恥ずべきことでしょう。人類は歴史上、これほどのリソース(資産)、能力を持ったことはないというのに、どうすることもできないのです。
こんな物語があります。
ある人が地球をひっくり返す魔法の棒を見つけた。彼は地球をひっくり返したはいいものの、地球を元に戻す術を知らなかった……。
いま、その物語のような状況が起こっているのです。
人は一人では生きられない
人間は、矛盾する2つのものによってできています。1つはエゴイズム。もう1つは団結力、連帯感です。
われわれは団結力、連帯感を教育によって高めることができます。正しく生きることによって団結力をさらに高め、自分のエゴにブレーキをかけることができるわけです。
1番大切なのは、ともに助け合うこと。チームワークによって、私たちは人生をより良いものにすることができます。他者の存在はとても大事なのです。「働くことができるのに仕事をしない」というのはあってはなりません。
アリストテレスは「人間は政治的動物だ」と言いました。人は一人で生きることはできないからです。
もし心臓病にかかれば、心臓病のお医者さんが必要になります。自動車が故障すれば、自動車に詳しい機械工が必要になるでしょう。あなたの存在は他者がいるからこそ、たしかなものとなるのです。
しかし、われわれは先述したようにエゴイズムを持っています。エゴイズムを持ちながら集団で生きなければならない。
だから、政治が必要なのです。私たちが神のように完璧であるならば、政治は必要ないでしょう。
政治とは、社会全体のことに心を砕くことです。試行錯誤して、どのように共存可能にしていくかを考えていかなくてはなりません。常に改善を繰り返し、変革していく。これは無限の戦いなのです。
いま、世界には重大な決断をする人がいません。
たとえば、トービン税(投機的な国際資本移動を抑制するため、短期的な為替取引に低率で課税する通貨取引課税)の導入です。
トービン税は一部の国だけ導入しても意味がないので国際的に導入する必要があるわけですが、まだ実現しません。生産資本よりも金融資本のほうが重要だ、という考えが強いからです。
また最近、パナマの弁護士事務所から流出したパナマ文書が問題になっていますが、富裕層や大企業はタックスヘイブンを使って自分たちの資産を守ること、あるいは増すことに躍起になっている。
みなさんのような若者は、こういった非常に馬鹿げたこと、悲惨な状況を止めるために戦わなければなりません。