最大の貧困、それは 「孤独」です|ホセ・ムヒカ(元ウルグアイ大統領)

最大の貧困、それは 「孤独」です|ホセ・ムヒカ(元ウルグアイ大統領)

グローバル化が進んだことで、市場はコントロールを失い、一部の人間だけが富を独占。大部分の人はその恩恵に与れず、未来に希望を持てずにいる。われわれはこの残酷で不条理な世界をどう生きればいいのか――「世界一貧しい大統領」が日本人に送る感動の「人生論」


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気がつくと、あなたはローンの支払いのために一生を捧げている

私は現在、80歳。人生の後半に私の国、ウルグアイとは反対に位置する日本という重要な国を知ることができたことを、心から感謝したいと思います。日本人は秩序立てて物事を判断するので、東洋のドイツ人との印象を持ちました。
 
いま、いろいろな価値観がありますが、もっとも重要なことは「生きている」ことです。生きていれば、これから数多くのチャンスに出会うことができる。これは奇跡のように尊いことです。
 
若者には2つ選択肢があります。1つは、「生まれたから生きる」という生き方。もう1つは、そこから出発して「自分の人生を自身で方向づける」生き方です。後者は、自分自身で人生を操縦していくということです。
 
人間には意識があり、感情があります。理性的に考えることも、抽象的に考えることもできる。
 
つまり、私たちは自分自身で人生の道を築くことができるのです。これは自然が人間に与えてくれた特権です。ほかの動物はそのような能力を持っていません。
 
私たちは自分の人生をコントロールしなければなりませんが、市場はもはやコントロールできない状態になっています。
 
その結果、一部の人間が富を占めるようになってしまいました。人類の歴史においてこれほど生産性が高まったことはないのに、分配の仕方が悪いために、大部分の人は恩恵に与ることができず、フラストレーションを抱えています。
 
もちろん、市場に屈服したまま生きることもできます。グローバル企業のために一生を捧げる人生もあるでしょう。2年ごとに新車に乗りたい、いまよりも大きな家に住みたいと負債を積み重ねて返済に追われる。気がつくと、あなたはローンの支払いのために一生を捧げていたということになるでしょう。

貧しい人とは、「いくらあっても満足しない人」

でもそうして生きて、私のようなリウマチ持ちの老人になった時、何が残るのか。モノを買うこと自体を楽しみにして、自分の人生の時間を浪費してしまう。
 
あなたが何かモノを買う時、それはおカネで買っているのではありません。モノを買うことは、そのおカネを稼ぐために費やさなければならない時間の一部を支払っているのです。私たちは人生の時間をもっと尊重しなければなりません。時間は重要です。時間は2度と戻ってこないからです。
 
スーパーマーケットに行けばいろいろなモノを買うことができますが、過ぎ去った人生の時間を買うことはできません。
 
若い時には愛のために――愛は地上においてもっとも重要なものです――多くの時間が必要です。パートナーや子供がいれば、彼らと愛を交わす時間が必要です。モノは愛をくれません。
 
みんな、私のことを貧しいといいますが、別に貧しいわけではありません。“質素”なだけです。以前は「austerity」(慎ましい)という言葉を使っていました。最近、「austerity」はヨーロッパで緊縮経済の意味で使われるので、いまは使っていませんが。
 
貧しい人とは少ししか持っていない人のことではなく、いくらあっても満足しない人のことです。
 
しかし、私には重要なものさえあれば、十分なのです。
 
質素に暮らしたほうが、本当にしたいことに時間を使えます。私にとってそれは社会運動ですが、ほかの人にとっては魚釣りをすることかもしれませんし、友人と遊ぶことかもしれません。
 
自分のしたいことに時間を使うことができる、それが「自由」です。そのためには、必ずしもモノが必要なわけではありません。

市場はどんどんモノを買わせようとする

しかし、市場はどんどんモノを買わせよう、買わせようとする。市場に操られてほしいモノが増えてしまうと、あなたは自由ではなくなってしまいます。あなたがほしいモノのために、大切な時間が市場によって奪われるからです。
 
みなさんにとって何が一番大切か、考えてほしいのです。
 
市場のすべてを悪と言っているわけではありません。もちろん、生活に必要な物資はあります。私が言いたいのは、「行き過ぎはいけない」ということです。
 
すべてのものにはリミット(限界)があります。私たちはこのことを認識する必要がある。
 
私たちは文明を築きましたが、その発展の速度が加速度的に速くなっています。本来なら、その速度にリミット、制限をつけなければなりませんが、先述したように、現在は制限する術を持っていません。
 
たとえば1997年、地球温暖化防止のために京都議定書が結ばれましたが、ほとんど効果はありませんでした。また、海洋汚染もどんどん深刻化しているにもかかわらず、私たちはそれを食い止めることができていない。
 
何と恥ずべきことでしょう。人類は歴史上、これほどのリソース(資産)、能力を持ったことはないというのに、どうすることもできないのです。
 
こんな物語があります。
ある人が地球をひっくり返す魔法の棒を見つけた。彼は地球をひっくり返したはいいものの、地球を元に戻す術を知らなかった……。
 
いま、その物語のような状況が起こっているのです。

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人は一人では生きられない

人間は、矛盾する2つのものによってできています。1つはエゴイズム。もう1つは団結力、連帯感です。
 
われわれは団結力、連帯感を教育によって高めることができます。正しく生きることによって団結力をさらに高め、自分のエゴにブレーキをかけることができるわけです。
 
1番大切なのは、ともに助け合うこと。チームワークによって、私たちは人生をより良いものにすることができます。他者の存在はとても大事なのです。「働くことができるのに仕事をしない」というのはあってはなりません。
 
アリストテレスは「人間は政治的動物だ」と言いました。人は一人で生きることはできないからです。
 
もし心臓病にかかれば、心臓病のお医者さんが必要になります。自動車が故障すれば、自動車に詳しい機械工が必要になるでしょう。あなたの存在は他者がいるからこそ、たしかなものとなるのです。
 
しかし、われわれは先述したようにエゴイズムを持っています。エゴイズムを持ちながら集団で生きなければならない。
 
だから、政治が必要なのです。私たちが神のように完璧であるならば、政治は必要ないでしょう。
 
政治とは、社会全体のことに心を砕くことです。試行錯誤して、どのように共存可能にしていくかを考えていかなくてはなりません。常に改善を繰り返し、変革していく。これは無限の戦いなのです。
 
いま、世界には重大な決断をする人がいません。
たとえば、トービン税(投機的な国際資本移動を抑制するため、短期的な為替取引に低率で課税する通貨取引課税)の導入です。
 
トービン税は一部の国だけ導入しても意味がないので国際的に導入する必要があるわけですが、まだ実現しません。生産資本よりも金融資本のほうが重要だ、という考えが強いからです。
 
また最近、パナマの弁護士事務所から流出したパナマ文書が問題になっていますが、富裕層や大企業はタックスヘイブンを使って自分たちの資産を守ること、あるいは増すことに躍起になっている。
 
みなさんのような若者は、こういった非常に馬鹿げたこと、悲惨な状況を止めるために戦わなければなりません。

行動に移さなければ何も変わらない

これらは、決して解決できない問題ではありません。人々がまとまり、団結すれば戦うことができます。
 
日本では希望を持てないと聞いています。日本の若者は30%しか投票に行かないとも聞きました。政治が信じられないのですね。
 
しかし、もし信じられないのであれば、自分が信じられるように何か行動してください。不平ばかり言っても、行動に移さなければ何も変わりません。生きるためには希望が必要です。行動しなければ、きっと希望よりも失望が勝利してしまうでしょう。
 
あなたの人生が希望のないものになってしまうとしたらどうでしょうか。
 
私は非常に批判的ではありますが、悲観的ではありません。反対です。私は人生を愛しています。
 
私たちは、社会をよくするために戦わなければなりません。それこそが人生の大義なのです。そして大義こそが、私たちの存在に意義を与えてくれるでしょう。
 
大切なのは勝利することではありません。「歩き続けること」です。歩き続ければ、100には到達できないかもしれないけれど、10ぐらいまでは到達できるかもしれない。
 
私は若かりし頃、革命運動に参加して世界を変えたいと夢見ていましたが、叶わなかった。
 
4度、逮捕・投獄され、1972年に逮捕された時には13年間、刑務所に入れられました。踏みつけられたり、ゴミ同然に扱われたりしたこともありました。とても辛い時期でした。
 
しかし、それほど辛い時間を過ごさなかったら、これまで言ったようなことを学ぶことはできなかったと思います。
 
軍事独裁の圧政などもありましたが、私は最終的に大統領になることができた。大統領になってからも、もっといろいろなことを実現したいと挑戦しましたが、途中で挫折して叶わなかったこともありました。
 
自分が切り拓こうとした道、自分が掲げた旗を引き継ごうとする人は必ずいます。私は、ほかの人が歩き続けられるように道を耕してきたつもりです。

私たちは「人生」という奇跡を得ている

政治的な立場をとるために、必ずしも何らかの政党に属する必要はありません。私は「人生」という党に属しています。
 
残念ながら、私はまだ神を信じるに至っていませんが、もし人生最後の時に神が現れたなら、「もう一度、生きさせてください」と頼むかもしれません。
 
はじめにも言いましたが、私たちは「人生」という奇跡を得ています。みなさん、どうぞよく生きてください。
 
それから、ぜひ家族を持ってください。家族とは、単に血のがった家族のことだけではありません。「同じ考え方を持った人」という意味です。人生を一人で歩まないでください。
 
アンデス山脈に住むアイマラ族では、貧しい人、かわいそうな人はコミュニティがない人、つまり孤独な人を指します。最大の貧困は「孤独」なのです。
 
私は何も、同感してほしいとの気持ちでこういった思いを話したわけではありません。
ただ、毎晩ベッドに入った時、たとえば5分でもいい。私の言ったことについてぜひ考えてみてください。

(2016年4月7日、東京外国語大学府中キャンパスで行われた講演「日本人は本当に幸せですか?」を整理再録)

著者略歴

ホセ・ムヒカ

https://hanada-plus.jp/articles/285

1935年生まれ。10代から政治活動を始め、1960年代初頭に当時の独裁政権に反抗する非合法政治組織トゥパマロスに加わる。ゲリラ活動による投獄は4回に及び、最後の投獄は13年にわたった。その後、再び政治活動を始め、94年には下院議員に選出される。2010年から15年まで、第40代ウルグアイ大統領を務める。12年、ブラジル・リオデジャネイロで開催された「国連持続可能な開発会議」でのスピーチが、世界の人々に大きな感動を与えた。13年、14年にはノーベル平和賞にノミネートされる。

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