ドイルが妖精の実在を信じた背景には、まず、ドイルの父親が画家で妖精画を得意としていたことが挙げられる。幼少期からドイルにとって妖精は身近な存在だったのだ。
もう一つは、ドイル自身が、世界に心霊学(スピリチュアリズム)を普及する活動をしていたことである。
ドイルは「死後も魂は存続する」という信念を強く抱き、降霊会や心霊写真などの心霊現象に大きな関心を寄せていた。とくに第一次世界大戦で息子を亡くして以降、霊界にいる死者との交流を確信するようになっていた。彼にとって様々な心霊現象を研究する心霊学は、人々に死後の希望を与える光だった。
ドイルはこうした心霊学と、妖精の問題は本来区別していた。だが、「(妖精の)発見が達成されれば、説得力に富む物的証拠を基盤にして、世界に広まりつつある『霊界通信』(スピリチュアル・メッセージ)を受け入れることも、そう難しいことではなくなることと思う」とも語っており、妖精の実在性を立証することは心霊学を普及する上で有益だと考えていた。
ドイルが研究した心霊現象には次のようなものがある。
◆降霊会(降霊術):霊媒を通じて死者の魂と会話できるとされる現象。ドイルはこれを強く支持し、多くの公開降霊会に参加した。
◆自動書記(オートマティズム):霊が霊媒の手を通じて文字や文章を書くとされる現象。ドイルは亡き家族からのメッセージが届くと信じていた。
◆心霊写真:写真に霊魂の姿が写り込むとされるもの。世界初の心霊写真家と言われているウィリアム・H・マムラー(1832~ 1884年)は、メアリー未亡人の背後に立つ暗殺されたエイブラハム・リンカーンの霊の写真で有名になった。
◆物理的心霊現象(テーブル・ターニング):降霊会でテーブルが動く・浮くといった現象。ドイルは、これが霊魂の力によるものだと確信していた。
これらの心霊現象から霊魂や死後の世界の存在を確信したドイルは『新しき啓示』(1918年)、『重大なるメッセージ』(1919年)という2冊の冊子にまとめ刊行した。
心霊現象は〝電話のベル〟
この中でドイルは「心霊現象は〝電話のベル〟だ」という主張をしている。
「電話のベルが鳴る仕掛けは他愛もないが、それが途方もなく重大な知らせの到来を告げてくれることがある。心霊現象は、目を見張るものであっても、ささいなものであっても、電話のベルにすぎなかったのだ」(『新しき啓示』)。
霊界からの電話(通信)によって死者の霊が地上の人間に伝えるメッセージこそが「新しい啓示」となって、人々を幸福に導くとドイルは説いた。


