「住む場所も収入も失った。自殺するしかない」 成年後見制度の報じられない地獄|長谷川学

「住む場所も収入も失った。自殺するしかない」 成年後見制度の報じられない地獄|長谷川学

成年後見制度の実態が国民にほとんど知らされていないのはなぜなのか? 制度を利用したばかりに民主主義国家にあるまじき凄まじい人権侵害を受け、苦しんでいる人が大勢いる。法制審議会は成年後見制度の見直しに向けた議論を行っており、今年6月10日に見直しに関する中間試案を公表したが――。


Getty logo

画像はイメージ

現行の成年後見制度では、後見人を選任、解任、監督する権限は家裁が一元的に担い、親族がいる場合でも家裁は親族を後見人にせず、赤の他人の弁護士、司法書士を後見人に据える運用が行われている。

認知症などの障害を持つ人にとって、家族や親族は、最も身近な存在で、自分の生い立ちや考え方、趣味嗜好、健康状態をよく知る信頼できる人たちだ。ところが全国の家裁は親族を後見人から事実上排除して、それが当たり前であるかのように法曹界仲間の弁護士、司法書士を後見人に据えている。

弁護士、司法書士後見人は本人のことをまったく知らず関心を持ちにくいうえに、原則無報酬の親族後見人と異なり、本人が死ぬまで本人口座から毎年24~72万円程度の報酬を引き落とす。報酬額は本人の預貯金残高に比例して家裁が決めるが、金額は本人と家族に教えられず、驚くべきことに領収書も発行されない。

「おかみ」=国家(家裁)がすることに誤りがあるはずがない、と言わんばかりの“上から目線”がいまだに公然と行われているのが成年後見制度であり、本人と家族が文句を言っても国は一切取り合わない権力的な運用が続いているのである。

弁護士後見人が加えた「真昼の暗黒」

Getty logo

画像はイメージ

こうした権力的で、いびつな制度が人権侵害を引き起こさないはずがない。森脇氏は「弁護士後見人が親に寄り添う子供に対し過酷な仕打ちをすること」への憤りを露わにするとともに、そもそも弁護士や司法書士には後見人に必要な福祉や医療に関する知識がなく「後見人としての能力と適正がまったくない」として、そうした弁護士らを後見人に選任する家裁の責任感の欠如を厳しく批判した。

森脇氏は聞き取り調査に備え、A4版22ページに及ぶ意見書を法制審後見部会に提出。その中で、認知症の親を抱える家族に対し弁護士後見人が加えた苛烈な人権侵害を「真昼の暗黒」と評し、森脇氏が担当した数多くの被害事例の中から複数の実例を示して被害の実態を訴えた。

それによると、両親の介護のために仕事を辞めた人(仮にAさんとする)がいて、両親名義の自宅に同居して介護生活を送っていた。ところがAさんの兄弟はAさんに財産を奪われると疑心暗鬼になったらしい。高齢者なら誰でもある物忘れの傾向が両親にあったことから、兄弟は両親に第三者後見人をつけて財産管理をさせることを考えたようで、家裁に後見人の利用を申し立てた。申し立ては四親等内の親族や自治体首長らが行える。

すると家裁が選任した弁護士後見人は、Aさんが介護に専念するために仕事を辞めて収入がないことと、親の年金で親子が生活していることをことさら問題視し、これらの行為が親に対する「経済的虐待」に当たると難癖をつけた。

弁護士はAさんの虐待から親を保護するという口実で、両親を施設に入れ、Aさんに居場所を教えなかった。そのうえで弁護士は、施設入所により自宅は不要になったとして家裁に売却を申し立てた。家裁は弁護士の言い分を丸のみして売却を許可、自宅は売却された。

なお自宅を売却すると、後見人弁護士は売却収益から100万円程度のボーナスをもらえる。また売却資金が両親の口座に入ると預貯金残高が増え、それに比例して弁護士に支払われる報酬も増えるため、一般的に弁護士後見人は高齢者を施設や病院に入れて、空き家になった自宅を売却したがる傾向が強い。

Aさんは森脇氏に「住む場所も収入も失った。自殺するしかない」と涙ながらに語った。

関連する投稿


被害者続出でも国は推進の異常! 成年後見制度は 「国家によるカツアゲ」|長谷川学

被害者続出でも国は推進の異常! 成年後見制度は 「国家によるカツアゲ」|長谷川学

なぜ国連勧告を無視し続けてまで政府は成年後見制度を促進するのか? なぜ新聞やテレビは被害者が続出しているにも拘わらず報じないのか? いまも平然と行われ続けている弱者を喰いモノにする「国家によるカツアゲ」。その実態を告発する。


暴かれたLGBT推進派の3つのウソ|山口敬之【WEB連載第24回】

暴かれたLGBT推進派の3つのウソ|山口敬之【WEB連載第24回】

LGBT法案の審議過程で、LGBT法成立を目指す推進派から数多くのウソと捏造報道情報がばら撒かれた――。ところが今月に入って、こうした主張がウソであったことが次々と明らかになってきている。ひとつひとつ解説していく。(サムネイルは稲田朋美議員Instagramより)


国民栄誉賞受賞ジャーナリストの不当逮捕に習近平の影|石井英俊

国民栄誉賞受賞ジャーナリストの不当逮捕に習近平の影|石井英俊

いま民主主義国であったはずのモンゴル国が、独裁国家中国によってその色を塗り替えられようとしている。そのような中、高市早苗大臣が会長を務める「南モンゴルを支援する国会議員連盟」が世界を動かした!


日本が誇る大手食品メーカーに激震!ミツカン「種馬事件」①実子誘拐の地獄|西牟田靖

日本が誇る大手食品メーカーに激震!ミツカン「種馬事件」①実子誘拐の地獄|西牟田靖

「お前! 何者だと思ってるんだ、お前!! この場でサインをしなければ、片道切符で日本の配送センターに飛ばす」「中埜家に日本国憲法は関係ない」。日本が誇る大手食品メーカーが、婿に対してとんでもない人権侵害を行っていた――。2022年8月号に掲載され、大反響を呼んだ記事を特別無料公開!


与党にはびこる〝中国共産党代理人〟|長尾たかし

与党にはびこる〝中国共産党代理人〟|長尾たかし

欧米各国が中国による人権侵害を事実認定して、政府や議会において対応すべく法整備が整っているのに、なぜ日本だけは一歩も前に進めないのでしょうか。永田町、霞が関の広範囲にわたって、中国共産党の呪いがかけられているとしか思えません――。


最新の投稿


「住む場所も収入も失った。自殺するしかない」 成年後見制度の報じられない地獄|長谷川学

「住む場所も収入も失った。自殺するしかない」 成年後見制度の報じられない地獄|長谷川学

成年後見制度の実態が国民にほとんど知らされていないのはなぜなのか? 制度を利用したばかりに民主主義国家にあるまじき凄まじい人権侵害を受け、苦しんでいる人が大勢いる。法制審議会は成年後見制度の見直しに向けた議論を行っており、今年6月10日に見直しに関する中間試案を公表したが――。


【常識保守のすすめ】〝安倍依存症〟から脱却するために|片山さつき×小川榮太郎【2025年10月号】

【常識保守のすすめ】〝安倍依存症〟から脱却するために|片山さつき×小川榮太郎【2025年10月号】

月刊Hanada2025年10月号に掲載の『【常識保守のすすめ】〝安倍依存症〟から脱却するために|片山さつき×小川榮太郎【2025年10月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


【今週のサンモニ】「再エネありき」「反原発ありき」の時代は終わった|藤原かずえ

【今週のサンモニ】「再エネありき」「反原発ありき」の時代は終わった|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


変わりつつある自衛官の処遇改善 千僧駐屯地に行ってみた!|小笠原理恵

変わりつつある自衛官の処遇改善 千僧駐屯地に行ってみた!|小笠原理恵

自衛隊員の職務の性質上、身体的・精神的なストレスは非常に大きい。こうしたなかで、しっかりと休息できる環境が整っていなければ、有事や災害時に本来の力を発揮することは難しい。今回は変わりつつある現場を取材した。


【読書亡羊】雑誌「冬の時代」が過ぎて春が来る?  永田大輔・近藤和都(編著)『雑誌利用のメディア社会学』(ナカニシヤ出版)|梶原麻衣子

【読書亡羊】雑誌「冬の時代」が過ぎて春が来る? 永田大輔・近藤和都(編著)『雑誌利用のメディア社会学』(ナカニシヤ出版)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!