現行の成年後見制度では、後見人を選任、解任、監督する権限は家裁が一元的に担い、親族がいる場合でも家裁は親族を後見人にせず、赤の他人の弁護士、司法書士を後見人に据える運用が行われている。
認知症などの障害を持つ人にとって、家族や親族は、最も身近な存在で、自分の生い立ちや考え方、趣味嗜好、健康状態をよく知る信頼できる人たちだ。ところが全国の家裁は親族を後見人から事実上排除して、それが当たり前であるかのように法曹界仲間の弁護士、司法書士を後見人に据えている。
弁護士、司法書士後見人は本人のことをまったく知らず関心を持ちにくいうえに、原則無報酬の親族後見人と異なり、本人が死ぬまで本人口座から毎年24~72万円程度の報酬を引き落とす。報酬額は本人の預貯金残高に比例して家裁が決めるが、金額は本人と家族に教えられず、驚くべきことに領収書も発行されない。
「おかみ」=国家(家裁)がすることに誤りがあるはずがない、と言わんばかりの“上から目線”がいまだに公然と行われているのが成年後見制度であり、本人と家族が文句を言っても国は一切取り合わない権力的な運用が続いているのである。
弁護士後見人が加えた「真昼の暗黒」
こうした権力的で、いびつな制度が人権侵害を引き起こさないはずがない。森脇氏は「弁護士後見人が親に寄り添う子供に対し過酷な仕打ちをすること」への憤りを露わにするとともに、そもそも弁護士や司法書士には後見人に必要な福祉や医療に関する知識がなく「後見人としての能力と適正がまったくない」として、そうした弁護士らを後見人に選任する家裁の責任感の欠如を厳しく批判した。
森脇氏は聞き取り調査に備え、A4版22ページに及ぶ意見書を法制審後見部会に提出。その中で、認知症の親を抱える家族に対し弁護士後見人が加えた苛烈な人権侵害を「真昼の暗黒」と評し、森脇氏が担当した数多くの被害事例の中から複数の実例を示して被害の実態を訴えた。
それによると、両親の介護のために仕事を辞めた人(仮にAさんとする)がいて、両親名義の自宅に同居して介護生活を送っていた。ところがAさんの兄弟はAさんに財産を奪われると疑心暗鬼になったらしい。高齢者なら誰でもある物忘れの傾向が両親にあったことから、兄弟は両親に第三者後見人をつけて財産管理をさせることを考えたようで、家裁に後見人の利用を申し立てた。申し立ては四親等内の親族や自治体首長らが行える。
すると家裁が選任した弁護士後見人は、Aさんが介護に専念するために仕事を辞めて収入がないことと、親の年金で親子が生活していることをことさら問題視し、これらの行為が親に対する「経済的虐待」に当たると難癖をつけた。
弁護士はAさんの虐待から親を保護するという口実で、両親を施設に入れ、Aさんに居場所を教えなかった。そのうえで弁護士は、施設入所により自宅は不要になったとして家裁に売却を申し立てた。家裁は弁護士の言い分を丸のみして売却を許可、自宅は売却された。
なお自宅を売却すると、後見人弁護士は売却収益から100万円程度のボーナスをもらえる。また売却資金が両親の口座に入ると預貯金残高が増え、それに比例して弁護士に支払われる報酬も増えるため、一般的に弁護士後見人は高齢者を施設や病院に入れて、空き家になった自宅を売却したがる傾向が強い。
Aさんは森脇氏に「住む場所も収入も失った。自殺するしかない」と涙ながらに語った。