「働くな」と言わんばかりの逆インセンティブ
「稼げば損をする」
そう思わせる制度設計が、自衛官OBの再就職と勤労意欲を阻んでいる。
この制度の実態を知れば、「給付金をもらえるからいいじゃないか」とは到底言えない。多くの退職自衛官は、体力・知力ともに衰える中で、再就職という第2の人生に挑む。慣れない仕事に苦労しながらも、どうにか家族のために頑張って、正当な報酬を得ることに何か問題があるのだろうか。
高齢者には厳しい体力勝負の仕事など、きつい仕事ばかりしかない場合もある。
「高級幹部以外の自衛官は海幕ではなく地方総監部の対応になるため、紹介される職種は警備や運転手が中心」だという噂をA氏は聞いた。高齢での運転手や警備の仕事はつらい。そう考えた彼は、飛び込み営業で民間企業への就職を勝ち取った。
「資格取得に100万円を投じ、365日働いています」
そんな努力の末の就職だった。A氏だけではない。多くの自衛官が「在職中も低処遇」「退職後も冷遇」「再就職後も報われない」という三重苦を強いられているのが現実だ。
若年給付金制度設計の前提には「早期退職に対する補填」という考えがあるが、補填どころか勤労の制限となっているのではないか。この制度のままでは、真面目に働く者ほど損をする。退職後の再スタートを切ろうとする人々に、「働くな」と言わんばかりの逆インセンティブがかかっている。
A氏は最後にこう語った。
「退職したら、ある意味、地獄が待ってます」
高齢になって不慣れな職場に新人として入る苦悩もさることながら、正当な報酬をもらっても報酬を辞退しなければならない理不尽さが退職後も付きまとう。職場からは、面倒なことを言い出す人と見られ、経理には嫌な顔をされてしまう。
制度の見直しとともに、「再就職支援の質」「職種の多様化」「給付金の柔軟設計」が急務である。国防に人生を賭けた者たちの第2の人生を全力でサポートすること。それが、次世代の自衛官確保にもつながるはずだ。
著者略歴

国防ジャーナリスト。関西外国語大学卒業後、広告代理店勤務を経て、フリーライターとして活動を開始。 2009年、政治や時事問題を解説するブログ「キラキラ星のブログ(【月夜のぴよこ】)」を開設し注目を集める。14年からは自衛隊の待遇問題を考える「自衛官守る会」を主宰。月刊『Hanada』、月刊『正論』、夕刊フジ、日刊SPA!などに寄稿。19年刊行の著書『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)は国会でも話題に。2022年10月、公益財団法人アパ日本再興財団主催・第15回「真の近現代史観」懸賞論文で最優秀藤誠志賞を受賞!産経新聞コラム「新聞に喝!」を担当。2024年12月、『こんなにひどい自衛隊生活』(飛鳥新社)を刊行。